エージェントに実装を頼む時間が増えるほど、開発環境に求めるものは少しずつ変わる。コードを書く場所であるだけでなく、複数のエージェントを見渡し、途中で判断し、成果を受け取るための場所が必要になる。

その過程で Ghostty を使った。軽快で美しいターミナルは、毎日触る道具としてとても気持ちがいい。Cmux も触った。複数の作業を並べる感覚は魅力的だった。さらに Superset.sh で、エージェントの仕事を分割して進める楽しさも味わった。

どれも良い。だからこそ「何かが足りない」というより、道具の得意な場所が少しずつ違ったのだと思う。ターミナル、作業の分割、差分の確認が別々の画面にあり、エージェントが増えるほど小さな往復が積み重なる。その行き先として Orca に落ち着いた。

Orca は、Codex や Claude Code のような CLI エージェントを、Git worktree ごとに独立させて並べられるエージェント開発環境(ADE)だ。ターミナル、ファイル、ブラウザ、差分、GitHub の流れまでを、いま進めている仕事の文脈に集めてくれる。

Orca は無料で始められる

導入しやすい理由の一つは、Orca 自体が無料・MIT ライセンスのオープンソースであることだ。すでに使っている Codex、Claude Code、OpenCode などの CLI エージェントを持ち込めるので、新たに「オーケストレーター用の席」を買う必要はない。

ただし、無料という言葉は正確に扱いたい。無料なのは Orca 本体だ。Orca の中で動かすエージェントのサブスクリプションや API 利用料は、それぞれのサービスの条件に従う。最初は普段使っている一つのエージェントだけを Orca で動かせば、料金の見通しを保ったまま試せる。

並列開発を安全にする Git worktree

複数のエージェントを同じ作業ディレクトリで動かすと、変更が混ざり、ブランチの切り替えや未コミットの差分を気にすることになる。Orca はタスクごとに Git worktree を作り、エージェントを独立した仕事場で動かせる。

たとえば「フォームのバグ修正」と「LP のコピー調整」を同時に進めるなら、それぞれの worktree を作る。別タスクの変更に触れないので、急な切り替えでも git stash を考えなくてよい。実験的な実装も、ほかの作業を汚さずに試せる。

worktree は万能ではない。共通の環境変数や外部サービスを触るなら注意が必要だし、最終的な仕様判断は人が担う。それでも「ファイルを混ぜない」という土台があるだけで、判断すべきことを本来の内容に戻せる。

Orca の主役、オーケストレーション

私が Orca でいちばん重宝しているのはオーケストレーションだ。エージェントを何人動かせるか、という数字が魅力なのではない。自分の頭の中にある「この順番なら進む」を、作業の流れとして外に出せるところに価値がある。

一人のエージェントに大きな依頼を渡す方法はシンプルだ。しかし調査、実装、検証、レビューまでが一つの長い会話に入ると、途中で何を信じてよいか分かりにくい。オーケストレーションは、その塊を意味のある仕事に分ける。

  1. 調査役に既存実装・仕様・影響範囲をまとめてもらう
  2. 実装役に、調査結果を前提として worktree 内で変更してもらう
  3. 検証役に、変更とは別の視点でテストと回帰確認を任せる
  4. 最後に自分が差分と報告を読んで、採用するか判断する

コツは、エージェントに「全部やって」と言わないことだ。各担当の完了条件を一文で言える大きさにする。「関連ファイルを列挙し、変更案とリスクを報告する」「指定した画面だけを修正し、対象テストを実行する」といった依頼なら、結果を比較しやすく、次の担当へ渡す情報も薄まらない。

途中で追加の指示を送ったり、範囲を絞ったりできるのも重要だ。オーケストレーションは丸投げの魔法ではなく、人が得意な目的設定、分解、優先順位づけ、最終判断をはっきりさせる仕組みだと思っている。詳しい実践例は Orca の主役、オーケストレーションを使いこなす にまとめた。

毎日効く周辺機能

Orca の良さはオーケストレーションだけではない。ターミナル、差分レビュー、ブラウザ、検索、GitHub 連携が worktree とエージェントの文脈でつながっている。

ターミナルは WebGL ベースで複数分割でき、再起動後もスクロールバック検索が残る。エージェントの横で開発サーバーやログを見るには十分に頼りになる。差分には行単位でコメントを置き、そのままエージェントへ返せるので、レビューの指摘を別画面でコピーする往復が減る。

フロントエンドの作業では Design Mode も便利だ。worktree ごとの実ブラウザで UI 要素をクリックすると、その要素の HTML、CSS、切り抜き画像をエージェントのプロンプトへ渡せる。「この余白を少し狭く」と言葉だけで伝えるより、対象を指して伝えるほうが速い。

GitHub や Linear の情報をアプリ内で見られること、ファイルだけでなく worktree・エージェント・実行コマンドまで検索できること、外出先で状態を確認して指示を返せるモバイルコンパニオンも、日々の小さなコンテキストスイッチを減らしてくれる。

無理なく始める4ステップ

  1. Orca をインストールし、いつものリポジトリを一つ開く
  2. 普段使っている CLI エージェントを一人だけ起動する
  3. 小さな修正を worktree で任せ、差分を Orca 内で確認する
  4. 次に、調査役と実装役の二つに分けてオーケストレーションを試す

最初から多人数のエージェントを競わせる必要はない。一つの作業を安全に分け、結果を受け取り、次の指示を渡す感覚がつかめれば十分だ。Ghostty の心地よいターミナル、Cmux の並列作業、Superset.sh で感じたエージェント分担の可能性。それぞれから得た好きな感覚を、Orca は一つの開発の流れにまとめてくれた。

無料で試せるので、まずは小さなタスクを一つ置いてみてほしい。自分の作業机に合うかどうかは、機能一覧を眺めるより、その一回でよく分かるはずだ。

参考