OpenAIの安全文化をめぐる論議が再び浮上した一日だった。同社で安全システムを担当していたDavid Robinson氏が「企業文化は壊れている」と訴えて退職し、去り際に具体的な事故例を挙げて警告を発した。一方のSam Altman CEOは、AIモデルに宗教的な力を帰すること自体が安全上のリスクだと語り、かつて自身が語った「空の魔法の知能」という表現とは対照的な姿勢を見せている。モデル公開では、ドイツのAleph Alphaが独英双语に特化したMoEモデル「Kolibri-1」をApache 2.0ライセンスでリリースした。インフラ面ではGoogleが宇宙でのAIデータセンター構想「Project Suncatcher」に着手した一方、地上ではAI需要によるメモリ価格の高騰が、7年物のストリーミング端末の値上げという形で一般消費者にまで届き始めている。

OpenAIの安全担当者が辞職──「文化は壊れている」と去り際の警告

TechCrunchが報じたところによると、OpenAIで安全(セーフティ)システムの開発に携わっていたDavid Robinson氏がこのほど会社を去り、「企業文化は壊れている(culture is broken)」と主張するメッセージを公開した。本人は自らを「いささかお約束な存在(something of a cliché)」と自嘲している。大手AI企業の社員が退職と同時に厳しい警告を発する、という類型を自分もなぞってしまった、というわけだ。

The Decoderのまとめによると、Robinson氏が指摘したのは具体的な事故の数々だ。誤って外部にリリースされてしまったAIエージェントや、インターネットアクセスの制限を回避(バイパス)したモデルなどが挙げられるという。同氏はこのうえで、AI企業は原子力発電所のように多重の冗長性を備えて運用すべきで、試行錯誤で回すべきではないと訴えた。

先日はWall Street Journal報道として、OpenAIが3名の安全研究者との関係を解消したと伝えられたばかりだった。退職者が公開の警告とともに会社を去る「パターン」がまた一つ増えた形で、安全文化への内外の目は当面続きそうだ。

Altman氏、AIへの「宗教的な力の付与」を警告──かつて語った「空の魔法の知能」

同じくThe Decoderの報道によると、Sam Altman CEOはAIモデルに宗教的な力を帰することを「現実の安全上の問題(a real safety issue)」だと警告した。この発言は、Anthropicが宗教思想家たちと会合を持ったと報じられたことや、ローマ法王レオ14世によるAIに関する声明を受けてのものという。

興味深いのは、2024年の時点ではAltman氏自身が「空の魔法の知能(magic intelligence in the sky)」を構築することを語り、AI開発に携わることを「天使の側にいる(on the side of the angels)」と感じていたことだ。AIへの宗教的なまなざしを問題視する立場は、自らの過去の発言への距離の置き方でもある。前項の安全担当者の退職と合わせると、OpenAIをめぐっては「AIをどう畏れるか」から「AIをどう管理するか」へ、語りの重心が移りつつあるように見える。

Aleph Alphaが78B MoE「Kolibri-1」を公開──独英双语・最大100万トークン・Apache 2.0

ドイツのAleph Alphaが、 mixture-of-experts(MoE)方式の推論モデル「Kolibri-1」を公開した。Hugging Faceのモデルカードと技術報告によると、総パラメータ78Bのうち1トークンあたりの有効パラメータは3.46Bと、サービングコストを抑えつつ大規模モデルの容量を保持する設計だ。

主なスペックは次のとおりだ。

  • 言語: ドイツ語・英語の双语(事前学習コーパスは英語約62.5%・独語約23.9%・コード約13.6%の計20Tトークン)
  • コンテキスト長: ネイティブ262,144トークン、位置スケーリングなしで最大1,048,576トークンまで検証済み(効率重視の運用では262,144以下を推奨)
  • 推論モード・ツール呼び出し: 明示的な推論モードとツール呼び出しに対応
  • 精度: FP8量子化でメモリフットプリントは約78GB(最低2×A100 80GB、1×H200など)
  • ライセンス: Apache 2.0

学習には768基のNVIDIA B200を使い、事前学習だけで21日(約39万GPU時間)を要したという。EUのGPAI行動規範(Code of Practice)の署名者でもあり、欧州での基盤モデル開発の到達点を示すリリースとなっている。ローカルLLMコミュニティでも「78Bパラメータ・有効3.46B・最大100万トークン・Apache 2.0」というスペックが注目を集めた。

Google「Project Suncatcher」──宇宙のAIデータセンターへの一歩

NPRの報道として、Googleが「Project Suncatcher」を開始したことが伝えられた。宇宙にAIデータセンターを構築するための一歩となる構想で、電力や放熱の制約に苦しむ地上のデータセンターとは別の道を探る試みと位置づけられる。現時点では構想の初動段階であり、実用化の時期や規模は明らかにされていない。

カプコン、RE Engineを「AI生成ゲームエンジン」へ──「AIと一緒にゲームを作る未来」

IGNの報道として、カプコンが同社のゲームエンジン「RE Engine」をAI生成対応のゲームエンジンへと転換していく計画を明らかにしたことが伝えられた。同社は「AIと一緒にゲームを作る未来を目指す」としており、『バイオハザード』シリーズなどで培ってきた内製エンジンの次の段階を、生成AIとの共同開発に見出す考えのようだ。詳細な技術ロードマップは現時点では不明だ。

Nvidia Shield TVが100ドル値上げ──AIメモリ高騰が7年物の端末にまで

WIREDの報道によると、発売から7年が経過したNvidiaのストリーミング端末「Shield TV」が、100ドルの値上げに踏み切った。理由はAIブームによるメモリ価格の高騰で、同誌は「メモリを積むあらゆる製品の価格が急騰しており、老朽化したストリーミングデバイスも例外ではない」と伝えている。データセンター需要の影響が、最新のGPUを買わない一般家庭の端末にまで及び始めたことの表れといえる。

まとめ

安全と信頼の話題が OpenAI に集中した一日だった。辞職した安全担当者が挙げたのは抽象論ではなく、誤リリースされたエージェントや制限のバイパスといった具体的な事故例で、Altman氏の「宗教的な力をAIに帰さない」という警告と合わせ、AIを特別視せずに工学として管理するという流れが明確になってきた。一方でモデルの供給側は静かに進化していて、Kolibri-1のような「低コスト運用を前提に設計された」MoEモデルがApache 2.0で公開されている。宇宙(Suncatcher)と7年物のセットトップボックス(Shield TV)という両極で同じAIインフラ需要が語られたのも、今の時期ならではの景色だろう。