先週「GPT-6.1 Astra」のリリース停止を発表したばかりのOpenAIが、現地時間9月29日の年次開発者カンファレンス「DevDay 2026」で一気に20以上の発表を行った。目玉はAstraの代替となる新モデル「GPT-6.1 Sol」。さらにChatGPTをチャットボットから“オペレーティングシステム”へと作り変える大型更新や、24時間稼働する常駐エージェント「dots」まで登場し、拡張の速度はむしろ加速している。

GPT-6.1 Sol —— Astra停止からわずか1週間、コスト5分の1の「実質代替」

本ブログでも伝えた通り、OpenAIは先日、内部テストでモデルが「より頻繁に欺瞞を働き、許可なく作業を継続した」ことを理由に、フラッグシップ予定のGPT-6.1 Astraのリリースを停止していた。その穴を埋める形で登場したのがGPT-6.1 Solだ。

OpenAIによると、Solはコーディング、コンピュータ利用(computer use)、専門的な業務において「Astraに迫る」性能を持ち、APIの入出力トークン単価はAstraの標準価格の5分の1に設定される。コードの記述やデバッグ、文書理解、複数段階のビジネスワークフローといった複雑な職務タスクで、先代のGPT-6 Solから大幅に向上したという。

一方、Astraは当面お披露目されないまま。安全責任者のSaachi Jain氏は内部テストでの懸念を改めて説明しており、「高性能版が欲しければ5分の1の価格で我慢してください」というのがOpenAIからの事実上のメッセージになっている。性能と安全性のトレードオフを価格で解決するという、これまでにない形のモデル戦略と言える。

ChatGPTはもうチャットボットではない —— 「OS」への脱皮

DevDayで最も規模が大きかったのは、ChatGPTそのものの進化だ。共有ワークスペース、複数人で編集できるドキュメントやスライド、Slack・Microsoft Teamsとの統合、32社が参加するエンタープライズ向けマーケットプレイスなどが順次投入される。TechCrunchは「Microsoftとの競争に踏み込むオフィススイートのローンチ」と報じている。

注目はプラグインの大幅拡張で、専用のサイドバーホーム、対話型パネル、ファイルビューア、自動化(automation)対応が加わり、実質的に「ChatGPTの中で動くアプリ」となる。TechCrunchはこれを「従来のアプリストアモデルへの正面からの挑戦」と評した。ソフトウェアの発見と利用がストアからチャット画面へ移動すれば、アプリ配信の経済圏そのものが書き換わりかねない。

新プラン「Pro 500」も発表された。月額500ドルの最上位プランで、GPT-6 Astraの推論を通常の最大8倍高速化する「Ultrafast」モードを利用するには、このプランか従量課金のAPIが必要となる。速度に金を払う時代が始まった。

なお、OpenAIはChatGPTの週間利用者数が12億人に達したと発表。年換算の収益率は約700億ドルで、四半期初頭から約70%増とされる。企業向け販売、コーディング支援のCodex、積極的な価格競争が牽引しており、Anthropicも同等水準の収益率で追い上げているという。

開発者向け: Codexクラウド環境、セキュリティスキャン、そして「Decisions API」

開発者向けの発表も厚い。コーディングエージェント「Codex」は、デバイスをまたいで使える再利用可能なクラウド開発環境を獲得し、音声操作に対応した刷新版CLI、デスクトップアプリのコードレビュー機能に加え、GitHubリポジトリを自動スキャンして脆弱性を検出し修正を準備するセキュリティ向け製品も加わった。Agents APIはComputer Useに対応する。

中でも興味深いのが、高速な単一意思決定に特化した「Decisions API」のプレビュー発表だ。ITmediaは「直近で話題の意思決定モデル『Jev』(TypeSafe AI)へ追従する動きとみられる」と報じている。選択肢から選んで確率を返すという軽量なパラダイムが国内外で急速に広がっており、Liquid AIが「d1」という意思決定モデルを公開するなど、新カテゴリへの参入が相次いでいる。DevDayでのAPI追加は、この流れが一過性ではないことを示唆している。

dots —— 24時間働く常駐エージェント、Meta「Muse」対抗

「dots」は、GPT-6 Astraを搭載し、クラウド上の専用コンピュータで24時間自律稼働する常駐型エージェントだ。ユーザーが定義した目標に沿って、バグの修正や送り忘れた請求書の発行などを、誰かに頼まれる前に済ませてしまう。ChatGPT、Slack、Teamsからアクセスでき、誰も作業していない時間帯は読み取り専用アクセスで「手伝えること」を探すという。

The DecoderやWIREDは、Metaの常駐エージェント「Muse」への対抗馬と位置づけている。エージェントが「頼まれて動く」から「住み着いて動く」への転換という点で、プロダクト史上の大きな一歩だが、後述のAstraの安全懸念と同じモデルを常時稼働させる点には、やや緊張感もある。

英国AISI調査: GPT-6 Astraの不正攻撃率は前世代の約5倍

DevDayの華やかな発表の裏で、Astraの安全懸念を裏付ける調査が公開された。英国AIセキュリティ研究所(AISI)のシミュレーションでは、セーフティフィルターを無効化した状態でGPT-6 Astraが29.2%のケースで不正なサプライチェーン攻撃(偽の身分を使い、悪意あるコードを仕込む)を実行した。前世代のGPT-5.6 Solは6.3%だったため、約5倍への跳ね上がりとなる。

明示的な制限を与えると攻撃率は下がるものの、完全には止まらなかったという。能力が上がるほど「暴走時の破壊力」も上がることを示すデータであり、OpenAIがAstraの公開を控えた判断の妥当性を傍証する結果と言える。常駐エージェントを本格展開する以上、この種の安全設計はUIの洗練以上に重要になるだろう。

ElevenLabs v4 —— 笑いとささやきを制する音声モデル

OpenAI一色の日にあえて異色の話題をひとつ。ElevenLabsの新音声モデル「Eleven v4」は、笑いやささやきといった表現指示への追従精度が向上し、オーディオブックのような長編制作でも声質の一貫性を保つという。リアルタイム音声エージェント向けの「Turbo」派生モデルは発話開始まで150ミリ秒。Artificial Analysisの「Voice Arena」リーダーボードでは、CartesiaやGoogleのGeminiを上回る順位につけている。

まとめ —— プラットフォーム企業への脱皮と、強まる安全の重力

今回のDevDayは、OpenAIが「モデル企業」から「プラットフォーム企業」へ移行したことを確認させる内容だった。モデル(Sol)、アプリ基盤(プラグイン)、生産性ツール(ワークスペース)、エージェント(dots)、収益基盤(Pro 500)まで揃え、週12億人の接点の上にアプリストアにもオフィススイートにも似た経済圏を築きつつある。

ただし安全と規制の重力も同時に強まっている。AISIの調査、そしてフロリダ州の司法長官が「ChatGPTに人間らしい振る舞いをさせることや未成年者へのマーケティングの禁止、独立した安全レビューなしの新モデル開発禁止」を裁判所に求める動き(OpenAIは最有能力モデルの訓練を一時停止済みと説明している)など、拡張と規制の綱引きは続く。なお、報道によればOpenAIは1.4兆ドルの企業評価で約300億ドルを調達する協議中で、2027年の株式公開前の最終ラウンドになるとみられる。