9月23日のAIニュースまとめ。シンガポールで9月22〜23日に開催されている「NVIDIA AI Day Singapore」に合わせ、東南アジア全域でのAI導入を加速させる発表が相次ぎました。最大の話題は、シンガポール発のグローバル企業Sea LimitedがNVIDIAの「Vera Rubin」プラットフォームをASEAN域内の企業として初めて採用したこと。規制面では、米イリノイ州がAIリスクに対応する専任組織「AI Cabinet」を設立しました。

SeaがNVIDIA「Vera Rubin」をASEAN初採用──Shopee・GarenaのAI基盤を強化

シンガポールに本社を置くSea Limitedが、ASEAN域内の企業として初めてNVIDIA Vera Rubinプラットフォームを採用したと発表しました。SeaはECのShopee、デジタル金融のMonee、ゲームのGarenaを通じて数億規模のユーザーにサービスを提供しており、この基盤の上でAIモデルやインテリジェントエージェントの開発・展開をさらに大規模化していくとしています。

すでにShopeeでは出品情報の作成支援や商品検索、Moneeでは不正検知や与信評価にAIを使っており、限られたリソースで事業を回す中小企業にも大企業級のAI技術を使いやすくする効果が出ています。Vera Rubinの採用は、こうした取り組みを支える計算基盤を次の段階へ引き上げるものとみられます。

東南アジア各国、Nemotronオープンモデルで「自国のためのAI」を構築

同じくAI Day Singaporeで報告されたのが、NVIDIAのオープンモデル「Nemotron」を使った地域特化AIの広がりです。

公共部門では、シンガポールのHTX(Home Team Science and Technology Agency)がNemotron 3 SuperとNemotron 3 Nano Omniを公共安全向けのAI研究に活用。複雑な推論やエージェントワークフロー、映像・音声・言語を統合するマルチモーダル応用への道を探っています。NCSやST EngineeringもNemotron系モデルとNeMo、cuOptなどを組み合わせて官民向けのエージェントAIを進めています。

各国の取り組みも具体的です。タイのiApp TechnologyはNemotron 3 Nanoをファインチューニングしたタイ語法律モデル「OpenThai 2.0 Legal」をオープンソースとして公開し、法律アシスタントチャットボット「Thanoy」はすでに約43,000人のユーザーに利用されています。ベトナムのViettel AIはNemotron 3 Superをベトナム語向けにファインチューニングし、ベトナム語ベンチマークVMLUで最高位を達成。AI Singaporeは東南アジア言語向けのオープンモデルファミリー「SEA-LION」をNemotronで拡張しています。マレーシアのITMAXやタイのAS-TECHは、Cosmosワールドモデルと映像検索・要約のBlueprintを交通や空港の旅客流把握に応用中です。

オープンモデルを土台に、自国の言語・制度・産業に合わせたモデルを自前で持ち運用する──東南アジアではこの「AI主権」の実装が着々と進んでいるのが見て取れます。

イリノイ州が「AI Cabinet」を設立──オープンウェイトを巡る圧力への懸念も

米イリノイ州のプリツカー知事は、AIのリスク評価と住民保護のための専任組織「AI Cabinet」を設立する大統領令(executive action)を発動しました。知事は「専門家や業界リーダーが警鐘を鳴らし、減速とガードレールを求めるなら、聞くべきだ」「議会とホワイトハウスがAIリスクを緊急に扱う必要があるが、それまでイリノイは待たない」と述べています。

この報道を受け、ローカルLLMコミュニティでは「オープンウェイト(公開されたモデル重み)への攻撃が続いている」との見方が広がっています。RedditのLocalLLaMA掲示板では、規制推進のプレスリリースにはクローズドウェイトのAPIベンダーの主張が同じ形で繰り返されていると指摘し、情報の源と整合性を確かめることが重要だという声が上がりました。規制の狙いが安全保障なのか市場保護なのか、見極めが求められる局面です。

研究ピックアップ: 自己改善するAI研究エージェント、拡散LLM高速化、メンタルヘルスLLMサーベイ

Hugging Face Daily Papersから気になる論文をピックアップしました。

  • Recursive self-improvement of AI research agents — AI研究エージェントの再帰的自己改善を扱った論文。エージェントが自らの研究成果をもとに能力を更新していく構図を検討しています。
  • Flash-dLLM — 拡散ベースLLMの高速化に挑む研究。IOを意識したKVキャッシングと並列デコーディングにより、高速かつメモリ効率的な生成を目指します。
  • RULER — SVG画像生成に「インスタンス認識のルーブリック報酬」を導入し、個々の生成例に応じた評価を可能にするアプローチ。
  • Ovis-Embedding — テキスト・画像などを横断する汎用オムニモーダル埋め込みの性能フロンティアを押し広げる研究。
  • メンタルヘルス分野のLLMサーベイ — LLMのメンタルヘルス支援は「情報ツール・パターン認識」から「共感的会話」、そして「縦断的でパーソナライズされたコンパニオン」という3つのフェーズを経て進化していると整理。Profile・Memory・Reasoning・Planningのエージェントアーキテクチャと、データセット・ベンチマークの整備が次の段階の鍵だと指摘しています。

コミュニティ動向: Unsloth Studio vs LM Studio、AIボットによるDDoS

ローカルLLMの話題では、学習・ファインチューニング環境のUnsloth Studioと、定番のローカルLLM実行環境LM Studioを比較するスレッドがLocalLLaMAで話題です。投稿者は「Unsloth Studioが公開された初日からLM Studioの未来を心配した」と率直に述べ、LM Studioが力を入れるBIONICの実際の利用状況に疑問を投げかけています。新旧の環境をどう使い分けるか、コミュニティで意見が交わされています。

また、米国の報道によると、AIエージェントに米シットコム「Seinfeld」のキャラクター名を付けることで、チームへの受け入れが良くなるという調査結果がセキュリティ企業から報告されました。人間側の心理に働きかけるエージェント設計の工夫として興味深い発見です(AIツールの命名がチームダイナミクスに影響する、という視点はエージェント導入の現場でも参考になりそうです)。

一方、TRPGフォーラムのEN WorldがAIボットによる大量アクセスで事実上のDDoS状態に陥っていることも報じられました。AIクローラーのマナーを巡る問題は、オープンウェイト規制とは別の形でネットコミュニティを直撃しています。

まとめ

ハードウェア(Vera Rubin)とオープンモデル(Nemotron)の両輪で東南アジアへのAI普及を推進するNVIDIA、州レベルで規制の枠組みを作り始めた米国、そしてツール競争が激化するローカルLLM界隈。インフラ・規制・コミュニティの3層で同時に動きが出た一日でした。