AIを取り巻く今夜の目玉は数学からの報せだ。クレイ数学研究所が、7つのミレニアム懸賞問題のひとつナビエ・ストークス問題について「一応解決された」との見解を示し、正式審査に入ったことが分かった。そのほか、BRICS諸国へのオープンソースAI圏構想、SuperhumanによるFathom買収、K2 Horizonのベンチマーク掲載とKVキャッシュ設計への批判、世界モデルのアクション編集研究と話題は多岐にわたる。本日のニュースを整理する。

ナビエ・ストークス問題「一応解決」──Clay研究所が正式審査へ

The Decoderの報道によると、クレイ数学研究所(Clay Mathematics Institute)はナビエ・ストークス問題が「一応解決された(apparently been settled)」と述べ、現在フォーマルな審査を行っているという。

ナビエ・ストークス問題は、各100万ドルの賞金がかかるミレニアム懸賞問題のひとつで、流体の運動を記述する方程式の解の存在と滑らかさを問うものだ。本ブログでも9月9日に「証明の主張がミレニアム賞2例目の候補」と伝えて以来の大きな進展で、懸賞主体である研究所自身が「一応解決」と言及した点が今回のポイントとなる。ただし表現はあくまで慎重で、審査の結果どう判定されるかは現時点では分からない。ポアンカレ予想以来の快挙となるか、続きを見守りたい。

習氏がBRICSにオープンソースAI圏を提案──減速呼びかけは「冷戦戦術」

中国の習近平国家主席がBRICS諸国に対し、オープンソースAIの圏域(ゾーン)創設を提案したと、CNBCロイターなど複数の国際メディアが報じた。協力強化の必要性を強調したもので、Redditのr/LocalLLaMAでも話題になっている。BRICS枠組みでオープンソースモデルの共有や共同開発が実際に進めば、ローカルLLM界隈への影響も無視できない。

同じ頃、中国の国有紙はAnthropicのAI開発減速呼びかけを「冷戦戦術」と非難したとロイターが報じいる。先に伝えた中国外務省の「恐怖煽り」反論からさらにトーンが強まっており、減速論をめぐる米中の攻防は当面続きそうだ。

SuperhumanがFathomを買収──生産性ツールはエージェントワークへ

TechCrunchの報道によると、メールクライアントのSuperhumanが、YC支援のAI議事録ツールFathomを買収した。Fathomは40万人超の月間アクティブユーザーを持ち、オンラインミーティングの議事録取得に特化してきたサービスだ。

買収の背景としてTechCrunchは、生産性プラットフォーム各社が「エージェントワーク(agentic work)」の実現を競っていると指摘する。メールとミーティングという日常業務の二大メディアを抱えるSuperhumanが、議事録という文脈を取り込むことでエージェントが動ける範囲を広げる狙いとみられる。統合後の製品展開は今後の発表を待ちたい。

K2 Horizon全ラインナップがAA掲載──KVキャッシュ設計に厳しい声

本日夕方のまとめで「K2 Horizon 7BがRedditで話題」と取り上げたが、続報としてフルラインナップがArtificial Analysisに掲載された。Redditの分析投稿によると、AAのインテリジェンス対パラメータ数プロットでは0.9Bと375Bが振るわず、3.7Bと7BがSOTA、36B-A4Bはメモリ帯域幅の限られるハードウェア(Strix Halo、DGX Sparkなど)でSOTAとされる。

ただし投稿者は「KVキャッシュ設計がひどい」と問題を指摘する。128kコンテキスト・Q4_K_M量子化の条件では、36B-A4Bは文脈に6.7GiB、7Bと3.7Bはそれぞれ5GiBを消費するという。Qwen3.6-35B-A3Bの同条件での文脈消費が0.7GiB、MiniCPM5-2Bで1.5GiBであることと比べると大きな差だ。パラメータ数で比較すると良好に見えても、RAM要件では評価が変わる。そのため「16GB VRAM+32GB RAMぴったりのホストには面白いが、24GB VRAMならQwen3.8-27Bの方が速く賢く256kコンテキストも使える」といった運用別の判断が必要になると述べている。

ActionSplice──世界モデルのアクションを「生成中」に編集する

研究方面では、ビデオ世界モデルのアクションを生成中に書き換えるActionSpliceがHugging Face Daily Papersに掲載された。チャンク自己回帰型の世界モデルでユーザーの操作が変わったとき、従来はロールバックして生成し直す必要があったのに対し、ActionSpliceは中断時点で軽量なコレクタが「反実仮想状態輸送(CST)」を行い、世界モデルとサンプラを凍結したまま軌道を差し替える。

CST-Rはアクティブなチャンク全体をリターゲットし、CST-Tは時間的なプレフィックスを保持して接尾辞だけを編集する。minWM–Wan Action2VとHY-WM1.5の評価では、CST-Rがロールバック比のLPIPSを61.5%および75.9%削減、CST-Tは接尾辞LPIPSを56.1%と77.5%削減し、待機と比べて2.73倍および1.69倍の高速化を達成したという。生成を最初からやり直さずに操作を反映できるこの性質は、ゲームやシミュレーションで世界モデルをインタラクティブに使う未来に直結しそうだ。

おわりに

数学の懸賞問題、地政学、買収、ローカルLLM、研究と幅広い動きが届いた一夜だった。「一応解決」の正式審査の行方と、BRICSオープンソースAI圏の具体化は、いずれも今後の展開が気になるところだ。