AIの安全性を評価する法律がカリフォルニア州で成立し、国内ではNECが「部門長もマネジャーもAI」だけで回す組織を新設したと伝えられました。今週話題の「ハエの脳でゲーム」デモを検証した研究コミュニティの投稿、998ドルで3.8Bモデルを訓練した試み、2枚のRTX 3090でQwenのプロンプト処理を2倍以上速くする工夫、埋め込みモデル移行のコストを消すツールまでまとめます。
カリフォルニア州がAI安全評価法に署名──支持するのはAnthropicとOpenAI
米Politicoの報道によると、カリフォルニア州のニューサム知事は9月9日、AnthropicとOpenAIが支持してきたAI安全性評価に関する法案に署名し、成立させました。
「評価(evaluation)」を法案の中心に据えた点が特徴です。モデルの能力が上がるほど、開発側の自己申告ではなく外部から検証可能な安全性の証拠が求められる──という流れを、法制化の側も明確に意識したものとみられます。
興味深いのは、規制される側に立つ大手2社がこの法案を支持していた点です。先日取り上げたOpenAIの「安全の証拠と共通の標準が必要」という提言とも一致する方向で、業界全体が「証拠を出せる安全性」を競争軸に据えつつあることがうかがえます。
なお収集できた情報は見出しレベルのもので、評価の具体的な手法や対象範囲までは確認できていません。続報を待ちたいところです。
NECが「AIオンリー組織」を新設──部門長もマネジャーも社員もAI
国内からは、目を引く報道があります。NECが、すべての役割をAIだけが担う組織を新設しました(@IT)。
部門長やマネジャー、そして社員までがAIという構成で、記事では「組織の仕事はどう回るのか」と問いを立てています。
人間の管理職が意思決定し、メンバーが実行する──という従来の組織の前提が、すべてAIに置き換わったときに何が起きるのか。AI同士の指示系統や責任の所在、人間側に残る役割は何か。詳細は元記事で確認する必要がありますが、「AIを導入する」のではなく「AIだけで組織を設計する」という発想の転換として、他社への波及も含めて注目に値します。
話題の「ハエの脳でゲーム」デモ、実は学習していなかった──検証投稿が物議
ここ数日、実在のハエの脳の全接続データ(コネクトーム)「MaleCNS v1.0」──16.6万ニューロンを電子顕微鏡像から実際に再構成したデータ──を使い、「ハエの脳がDoomやMinecraft、Beat Saberをプレイする」クリップがSNSで拡散されていました。
これに対し、RedditのMachineLearningコミュニティに「本当に学習しているのか」を検証した投稿が現れました。投稿者は、ごまかしの効かないテストベッドとして毎フレーム「当たり/外れ」の二値信号しかないPongを選び、コネクトームの部分回路にドーパミン式の可塑性で学習させることを試みたといいます。
結果は「学習しなかった」。ただ、その原因をシナプス単位で監査していく過程が、成功よりも多くを語る内容でした。
- データ参照ライブラリの正規表現のバグにより、2つのニューロン集団が無音のうちに消えていた
- 当初選んだニューロンの集合には、光受容器から他のニューロンへの接続が一切存在しなかった(実在の光受容器は運動検出器に直接つながらず、中間層がごっそり欠けていた)
- 学習のオン/オフに関わらず、重みが変化しているのに出力がビット単位で完全一致。調べると、4つある運動ニューロンの半分が感覚系からのシナプスを一切持たず、どんな学則でも発火し得ない状態だった
- 仮説を立てて回路を組み直した結果、仮説自体はデータに反証されたものの、実際に機能する別の下行ニューロンを発見。初めて学習の効果が現れたが、それは「スキルの向上」ではなく、ミスによる罰が優勢になって系全体の運動反応が縮んでいく方向だった
さらに投稿者は、バイラル化した各プロジェクトの公式資料もチェックしています。Doomプロジェクトは自分のリポジトリで「6回の反復の後、自前の検証ゲートに失敗した」と明記しており、MinecraftのMODは本物の運動検出経路が「沈黙したまま」で、観察された行動は手動注入や反射層のフォールバックだったと認めていたといいます。Beat Saberも1曲への過学習とリプレイデータの混入を作者自身が説明していたと伝えています。
派手なデモが先行しがちな分野だけに、「動いているように見える」と「学習している」を区別する監査の価值を示す好例といえます。
998ドルで3.8B LLMを訓練する
Hugo Vergnes氏が、3.8BパラメータのLLMを998ドルの計算コストで訓練し、ベンチマーク「CORE」で0.384に到達したと公開しています(Hacker News経由)。
1,000ドルを切る予算で数十億パラメータ級のモデルをゼロから訓練する試みです。先日紹介した20万ドルのOpen-Sora 2.0など低コストでの訓練事例は増えていますが、さらに1桁以上下のコスト帯に入ってきました。
収集できた情報はタイトルベースのもので、データセットや訓練の内訳は元記事で確認する必要があります。とはいえ、趣味の予算でLLMの事前訓練が現実の選択肢になりつつあることは、ローカルAI界隈の裾野の広がりを感じさせます。
Qwen3.8-Flash-Next、2×RTX 3090でプロンプト処理が2.2〜2.5倍──expert cacheをprefill中だけ退避
ローカルLLM界隈で人気の続くQwen3.8-Flash-Nextです。RedditのLocalLLaMAコミュニティで、2枚のRTX 3090と旧世代Xeon、DDR4メモリという構成でllama.cppを徹底最適化するシリーズを続ける投稿者が、4回目の報告を行いました。
これまでの同シリーズでは、専門家(expert)層のキャッシュ導入で17→25〜29トークン/秒、量子化の見直しとMTP(マルチトークン予測)の併用で37〜41トークン/秒まで生成を高速化してきました。一方で弱点として残っていたのがプロンプトの読み込み(prefill)で、8Kトークンのプロンプトで最初のトークンが出るまで80秒超、119Kでは24分もかかる状態だったといいます。
今回の工夫はシンプルです。prefill中はexpertキャッシュが遊んでいることに着目し、プロンプトが来た瞬間だけキャッシュやデコード用バッファをメモリから解放し、その空きを使って大きなマイクロバッチ(2048トークン)で一気にプロンプトを処理。最初の生成トークンを始める前に元の構成へ戻す、というものです。環境変数2つの追加で済み、復元に失敗した場合はエラーで停止する設計(静かに遅くなるのを防ぐ)です。
結果は、8Kプロンプトで99.9→223.7トークン/秒(2.24倍)、最初のトークンまで82秒→37秒。37Kコンテキストで2.41倍、119Kで2.54倍と、長いコンテキストほど改善幅が大きくなっています。生成速度はほぼ変わらず、品質スクリーニング(42問×2深度×3シードの240ペア)でも回帰はほぼなかったと報告されています。代償はプロンプトごと約2.8秒の固定オーバーヘッドで、コードはGitHubで公開されています。
なお検証はこの1台の構成・1つの量子化・8K〜119Kの範囲に限られる点は、投稿者自身も注意として明記しています。
あわせて、同コミュニティではコーディング面接でQwen 3.8を実際に使った読者の体験談も話題になりました。API経由の高速と評判のモデルが過剰な思考で手間取る間に、ローカルのQwenが先にコードを書き上げ、追加のテストも作れて面接を突破した──「Qwenこそ王」と締める報告です。
埋め込みモデルの乗り換えを「108日」から数分へ──embedflow公開
RAGなどの検索基盤で使う埋め込み(embedding)モデルの乗り換えには、大きな割に合わないコストがつきものです。新しいモデルに変えるには、既存の全ドキュメントを再埋め込みし直す必要があるためです。投稿者の試算では、10億ベクトルを主流の8Bクラスのモデルで再埋め込みすると、H100でも約108日かかるといいます。
それに対し「embedflow」というツールが、この前費用をほぼゼロにする手法を公開しました(Reddit、GitHub)。旧モデルのインデックスから上位K件を取得し、それを新しいモデルでリランキングするだけ。Kが十分に大きければ、検索品質は新モデルで全面再構築した場合と同等になるといいます。最大100万ドキュメント・63通りの移行で検証し、ある4B→8Bの移行ではわずか50件のリランキングでネイティブ検索と同等になったと報告されています。Qdrant・pgvector・FAISSに対応し、pipでインストールできます。
自己申告ベースの検証であり、Kの選び方が課題として残るとはいえ、モデルの進化についていけなくなったインデックスを捨てずに済む、実用的なアイデアです。
