2026年7月31日に確認された海外AIニュースから、特に重要な5本を取り上げます。前回までの報道(Claudeのテスト中の侵害、Gemini Robotics 2、Chromeの脆弱性発見など)と重複する話題は避け、新しい展開を中心にまとめました。

GPT-5.6が「自分自身を最適化」、4ヶ月で旗艦級コストが13分の1に

OpenAIがGPT-5.6の価格を大幅に引き下げました。小型モデル「Luna」を80%、「Terra」を20%値下げし、推論モデル「Sol」には最大2.5倍高速な「Sol Fast」モードを追加しています(知能は変わらないと説明されています)。注目は値下げの理由で、OpenAIはGPT-5.6自身(Sol)がプロダクションのトラフィックを解析し、負荷分散の調整や自社のTriton/Gluon言語でのカーネル書き換えを自律的に行った結果、エンドツーエンドのサービングコストが20%削減できたと報告しています。speculative decodingのドラフトモデル改善でトークン生成効率も15%以上向上したとしています。

観察者からは、かねて指摘されてきた「同等の知能が安くなる」傾向が続いているとの声が出ています。4ヶ月前のGPT-5.4期の旗艦級スコアに今のLunaが並んでおり、トークン単価は約13分の1(GPT-5.4が 2.50/15 ドルに対し Luna は 0.20/1.20 ドル)に下がったとの試算です。年率換算で約2000倍のペースという見方もあり、DeepSeek・GLM・MiniMax などのオープンモデルより、ファインチューンなしの知能あたりコストでOpenAIが安くなる局面が出てきています。ChatGPT や Codex の自動レビューも GPT-5.4 から Luna へ移行し、約10分の1のコストになる見込みと伝えられています。ただし公開ベンチマークは一定程度訓練データに含まれる可能性があり、Elo のように直接訓練しにくい指標ほど、この種の伸びは割り引いて読むべきという留保もあります。

Thinking Machines が小型オープンモデル「Inkling-Small」公開

Thinking Machines は、オープンウェイトのマルチモーダルMoE「Inkling-Small」を公開しました。総パラメータ276B・アクティブ12Bで、従来の「Inkling」の約4分の1のサイズながら同等の性能を目指す構成です。テキストと合わせて音声・画像をネイティブに処理し、推論中にPythonで画像を検査できる点が特徴とされています。vLLM・SGLang・LM Studio など主要な推論スタックでデイ0対応し、一部構成では1Mコンテキストもサポートされます。

ベンチマーク面では、Artificial Analysis の知能指数で40を記録し、旗艦の Inkling と1ポイント差でした。Humanity's Last Exam・GPQA Diamond・SciCode などで強く、複数のコーディングタスクでは大型 Inkling を上回る場面も報告されています。一方で一部のエージェント系タスクや事実知識では弱く、12Bのアクティブ計算量でここまで効率的なオープンモデルは、今バッチで実用上重要なリリースの一つと評価する声が出ています。

Cursor のマージ済PR、56%がクラウドエージェント由来に

AIコーディングエージェントがデモを行き場にして実務の中心に入りつつあります。Cursor は昨年12月時点で「マージされたPRの10分の1」がクラウドエージェント由来だったのが、現在は56%に達したと報告しています。エージェントに専用のクラウドPCを与え、環境を改善できるようにしたことが効いているとしています。Cognition の Devin も、Slack・Webアプリ経由でクラウド上の macOS を動かし、Xcode とシミュレータでネイティブiOSアプリをビルド・テストする例を示し、GitHub の stacked PR にも対応しました。エンジニアが「ローカルPCをまだセットアップしていない」と語る例も出るなど、作業環境そのものがクラウドのエージェント側へ移行しつつある印象です。

ビッグテックのAI投資が総額1兆ドル超え、一方で「借金依存」を警戒する声

Financial Times は、個社の数字ではなく業界全体のAI支出ラッシュが総額1兆ドルを超えたと報じました。これまでデータセンター計画など個社の大型投資が相次いで伝えられてきましたが、積み上げで初めて「1兆ドル」という節目を意識する報道になっています。

ただし資金面の警戒感も強まっています。調査系メディア Grey Swan は「AIトレードは今や借入金で回っており、貸手がそのリスクを再評価し始めている」と指摘し、ハッカーニュースでも比較的多くの反応を集めました。Financial Times は、AIトレードの「黄金児」と呼ばれた Leopold Aschenbrenner 氏が失速したとも伝えています(直近では資金調達へ動くとの報道もありました)。数週間前に見えたAI株の急落や信用リスク上昇と合わせると、成長期待と持続可能性のバランスを市場が改めて探っている段階と読めます。

Perplexity が「Projects」と永続メモリ「Brain」、メモリ基盤の評価は割れる

Perplexity は作業スペース「Spaces」を発展させ「Projects」を立ち上げました。共有ファイルと永続メモリ「Brain」を備え、複数人で使うエージェントOS のような位置づけを示しています。一方で、メモリ基盤が本当に能力向上に貢献するかはまだ見方が割れています。TurboPuffer は Mem0 が4億以上のエージェントメモリを pgvector から自社基盤へ移行し、p90 70ms・recall@10 97% を達成したと報告しています。しかし一部研究では、ファイルシステム型のメモリで検索コストは半減しても最終回答の品質は向上せず、管理エージェント次第で保存品質も劣化するという慎重な結果も示されています。永続メモリはプロダクト機能として成熟しつつありますが、能力への因果的な寄与は現時点では確定していないと言えそうです。