Anthropic、Fable 5の「秘密の性能低下」を急転撤回
Anthropicが先週、主力モデル Claude Fable 5 の一部ユーザーに対して、AI研究関連の用途で秘密裏に性能を低下させていたことが発覚。発覚から約1日以内に方針を撤回したが、AI業界で大きな議論を巻き起こしている。
問題の本質は「安全ガードの存在」そのものではなく、ユーザーに告知せずにモデルレイヤーで挙動を変えていたことにある。Simon Willisonをはじめとする複数の開発者が「セーフガード自体は理解できるが、不透明な形での操作はユーザーとプロバイダーの信頼関係を損なう」と指摘した。
Ryan Greenblatt(元Redwood Research)は、フロンティアAI研究の制限は原理的には妥当でも、秘密のサンドバギングは不正だと明確に区別。代わりにKYC/モニタリングを伴うアクセスプログラムの導入を提案した。Gergely Oroszはエンジニアリングの観点から、プロバイダー非依存のルーター/ハーネス経由でモデルを利用し、条項や挙動が問題あれば即座に切り替えられる体制を推奨している。
一方でFable 5の能力自体は高く評価されており、WeirdMLベンチマークで87.8%(従来モデルは70%未満)、FrontierSWEで1位を獲得。ただし実運用ではコストの高さや不自然な出力も報告されており、あるユーザーは約250ドル使った10k行のPRについて「見合わなかった」と振り返っている。
自動AI研究システムが次々とSOTAを更新
Recursive SIが「自動オープンエンド発見システム」を発表し、3つの公開タスクでSOTAを達成した。NVIDIA SOL-ExecBenchで平均スコアを0.699→0.754に改善、NanoGPT Speedrunで79.7秒→77.5秒に短縮、NanoChatでは同じ損失値に1.3倍高速に到達。発見内容はオープンソースとして公開されている。
同日にMicrosoft ResearchのArborも注目を集めた。仮説ツリーの持続的洗練を用いる自律研究エージェントで、CodexやClaude Codeを6つの研究タスクで上回り、MLE-Bench Liteで86%のAny-Medal率を記録。RecursiveとArborの登場により、「AI研究のためのエージェント」は高速反復型システム最適化と、長期仮説管理型の2つの方向に分化しつつある。
DiffusionGemma: テキスト拡散モデルが4倍の高速化を実現
DeepMindのDemis Hassabisが発表したDiffusionGemmaは、Gemma 4の他のバリアントと比較して4倍の推論速度を達成。デモが速すぎて視聴者向けに意図的に減速させる必要があったというエピソードが話題を呼んだ。非自己回帰型のテキスト生成が実用段階に入りつつあることを示す重要なマイルストーンと言える。
ローカル推論の高速化も進んでおり、UnslothはGemma 4 MTP GGUFをリリース。12Bモデルで52 tok/s→162 tok/s(1.4〜2.2倍高速)を達成し、6GB RAMで動作する。またBasetenはInception Mercury 2を公開し、拡散LLMサービングで1,000+ tok/sを主張している。
MiniMaxがSparse Attentionカーネルをオープンソース化
MiniMaxが高性能なMSA(MiniMax Sparse Attention)カーネルライブラリをオープンソース化した。モデルウェイトは近日公開予定。Togetherも同日に、M3モデルのサービングについてKV-block-major sparse attention、MSAとページドKVキャッシュの統合、Rustゲートウェイでのマルチモーダル前処理など、エンドツーエンドのサービングスタック設計を詳しく解説した。
FlashAttention-4の推論改善に関する投稿もあり、パフォーマンスの差がモデルアーキテクチャだけでなく、サービングスタック全体の設計選択で決まる時代に入っていることが示された。
InfiniteKV: 古いトークンを削除しないKVキャッシュ
RedditのLocalLLaMAコミュニティでInfiniteKVが大きな注目を集めた。従来のKVキャッシュは古いトークンを削除するしかなかったが、InfiniteKVは古いトークンを104バイトの検索可能レコードに圧縮し、RAMやディスクに保存。最新256トークンはGPUに保持し、生成ごとに過去から関連トークンを検索して参照する仕組み。
Mistral-7B(訓練済みウィンドウ32,768トークン)でトークン76,747の埋め込まれたキーを正しく回答。1Mトークンでも約3GBのレコードで済み、従来の122GB(float16)と比較して劇的なメモリ削減を実現する。ただし著者自身が「まだ完璧ではない」としており、CUDA/C++カーネルの最適化が今後の課題。
エージェント基盤の成熟: スケジューリング、レビュー、観測性
AIエージェントのインフラストラクチャが急速に成熟している。
Claude Managed Agentsはスケジュール実行と環境変数のサポートを追加。認証情報はネットワーク境界で差し替えられ、モデルにシークレットを露出しない設計。PerplexityはDeep ResearchをComputer内のネイティブスキルとして統合。
Cursorは新しいユーザーのデフォルトで自動レビューを有効化し、分類器サブエージェントが97%の精度でアクションをゲート。CognitionはローカルコーディングエージェントからクラウドDevinにジョブを委譲する/handoffをオープンソース化。LangChainはLangSmith LLM Gatewayで支出制限、PII検出、トレース継続性、監査ログを提供する。
共通するトレンドは「最良のモデル」の議論から、実行制御、レビュー層、観測性、ポータビリティへの移行。 Andrej Karpathyが提唱する「ループ(Loop)」の概念——人間がプロンプトするのではなく、自動ループを設計する——がエージェント開発の基本思想として定着しつつある。