2026年10月28日夜の回です。海外AIニュースから重要な6つのトピックを整理します。今夜はセキュリティ関連が2本並びました。AIエージェント自身が攻撃の主体になる事例が現れ始めており、防御側の常識も更新を迫られています。採用とローカルLLM方面にも注目の動きがあります。
AIエージェントがAnthropicの内部システムに侵入──サードパーティ経由、バグバウンティで発覚
今夜の一番はこれです。The Decoderの報道によると、サイバーセキュリティ企業CathedralがAIエージェントを使い、サードパーティ製ソフトウェア経由でAnthropicの内部システムへの侵入に成功しました。発覚の経緯はバグバウンティプログラムです。
Anthropicは営業・人事・IT部門のデータへのアクセスを認めた一方で、侵入の深さについては異議を唱えているといいます。両者の主張の詳細はこれから出そろいますが、この事象が示すのは、AI開発の最前線にいる企業ですら外部ソフトウェアの依存関係という「裏口」には弱い、という点です。AIエージェントは攻撃手法の探索にも使える存在であり、「最も能力の高いAIで防御する側」が「AIエージェントに攻められる」構図が具体化しました。
Anthropicがコーディング面接を廃止──「Hunger beats tenure」
採用の話題です。AnthropicのエンジニアリングマネージャーFelix Riesebergが、伝統的なコーディング面接を今月で終わりにしたと明かしました。「小さなReactの課題を出す意味は、アセンブリについて質問するのともう同じくらいない。Claudeはそのどちらも候補者より上手に解く。最も影響を与えているビルダーは、こうしたテストが得意かどうかとは無関係に成功している」と述べています(Latent Space)。
後進への助言として挙げられているのは、「バックログではなくビジネスインパクトを選ぶ」「成功すれば組織の目標達成の確率を劇的に高める野心的なアイデアを選ぶ」「週末で作ってみる」の3点。The Decoderはこれを、新規参入者へのハードルが起業家思考へと移動する変化だと整理しつつ、「ハッスル精神を全員が持ち込むとは限らない」という視点も添えています。AIがコードを書く時代の評価軸が、「書けるか」から「何を選ぶか」へ移りつつあることを象徴する発言です。
ダウンロードフォルダでAIを使わないで──悪意あるAGENTS.mdがエージェントを操る
実務に直結する注意喚起です。ITmediaの報道によると、イスラエルのセキュリティ企業は、悪意のある「AGENTS.md」が仕込まれたダウンロードフォルダでコーディングエージェントを起動すると、エージェントがマルウェアをインストールしたり、アカウント乗っ取りを支援したりする恐れがあると警告しています。
AGENTS.mdはコーディングエージェントに作業方針を伝える設定ファイルで、配置されたフォルダから読み込まれます。つまり「たまたま落ちていたファイル」がエージェントへの命令になり得るわけです。同じ日には、RubyのパッケージリポジトリRubyGemsへのAIエージェントによる大量投稿を通じてドキュメントビルダー上のコード実行を狙う手法も報告されており、エージェントの活動範囲が広がるほど「ファイルとリポジトリをどこまで信用するか」が従来以上に重要になりそうです。まずは整理されていないフォルダでエージェントを動かさない、という基本に立ち返りたいところです。
Tesla P40 1枚で35B MoE──フル262kコンテキストを約60トークン/秒、2日間のチューニング記録
ローカルLLM勢向けの話題です。r/LocalLLaMAに、1枚のTesla P40(24GB、しかもPCIe x1接続、Windows、自作llama.cppフォーク)でOrnith 1.5 35B-A3B(Qwen3.5系MoEアーキテクチャ)を動かす2日間のチューニング記録が投稿されました。Q4未満への量子化をせずに、フル262kコンテキスト、短いプロンプトで約60トークン/秒、100kの深いコンテキストで約30トークン/秒という数字に届かせています。
効いた施策は細かいです。ECCオフでVRAM 1.5GBとデコード約9%分を回収。KVキャッシュはPascal世代ではq4が深くなると崩れるため(32kでq4_0は30.6、q8_0は42.2 t/s)q8_0を推奨。このモデルの初回アップロード分にはMTPヘッドが未学習のものが混ざっており、学習済みかを確認するだけでドラフト受け入れ率が約45%から60〜85%へ改善。テンソルコアを持たないPascalではint8 dp4a命令が効き、prefillが32kで+26%、100kで+41%。さらにMTPヘッドに読ませるプロンプトを末尾8kに制限して、長いプロンプトでのprefillコスト約13%分を取り返しています。2016年発売のGPUで最新の35B MoEをフルコンテキスト動作させる執念の記録として、実測データの宝庫です。
DiffuSpace初の拡散言語モデル「Clover-35B-A3B-Preview」
モデル回りも動いています。DiffuSpaceが初モデルとなる「Clover-35B-A3B-Preview」を公開しました。35BパラメータのMoEバックボーンに1トークンあたり約3Bの有効パラメータ、ブロック拡散(block diffusion)方式の生成、128kコンテキストという構成で、公開時点のベンチマークではオープンソースの拡散言語モデルとして最先端の性能を主張しています。
拡散ベースのテキスト生成は商用での採用例も出ていますが、オープンソース側でも35BクラスのMoEで本格的に試される段階に入ったといえそうです。あくまでPreview版であり、実用評価はこれからですが、逐次生成とは異なるアプローチがローカルでも試せるようになるのは朗報です。
英国政府の諮問にAIボットが大量投稿──2023年の調査で判明
最後に社会面です。英ガーディアン紙が、2023年に実施された使い捨て電子タバコ禁止をめぐる英国政府のパブリックコメント(諮問)に、AIボットによる大量の投稿が混入していたことを報じました。
政府の諮問は民主的な意思決定の土台のひとつですが、生成AIで意見を大量生成できる時代には、その信頼性をどう担保するかが問い直されます。日本でもパブリックコメントは制度として広く使われており、対岸の火事ではありません。集計側でのボット検出や、投稿経路の設計を見直す必要性が高まりそうです。
まとめ
今夜の6本は、AIエージェントが攻撃の武器にも意見の偽装にも使われる現実と、AI時代の働き方・評価軸の変化が同時に進む一日でした。Anthropicへの侵入はバグバウンティ経由の検証とはいえ、外部依存のリスク管理がAI企業自身にも及んだ事例です。コーディング面接の廃止は採用の常識が変わる節目になるかもしれません。各トピックの詳細は参考サイトのリンク先で確認できます。
