モデル探しの謎が解けた一日だった。usageリーダーボードをトップに立たせていたステルスモデル「Space Bunny」の正体が、MiniMaxの新モデル「M3.1 Flash」の前期ビルドだったと明かされた。10月23日のweights公開を目前に、ベンチマークと価格の詳細も示されている。あわせてInceptionのdiffusion LLM「Mercury 3」、Metaの30Bオープンウェイト「Muse Glimmer」が登場し、オープンウェイト側の動きが一気に活発化。研究面ではAIブラウザの機密情報窃取リスクの検証とChatGPT広告の実態調査、市場面ではGoldmanが明かすヘッジファンドのテック株最速削減、規制面ではFTCによるLiveRamp買収の条件付き認可と、守る・測る・動かすの各層がそろって動いた。
ステルスモデル「Space Bunny」の正体はMiniMax M3.1 Flash──ベンチと価格の詳細も判明
先日「詳細は公式発表待ち」と伝えたMiniMaxのM3.1 Flashについて、Latent SpaceのAIニュースレター(AINews)が新しい情報をまとめている。それによると、同モデルはusageリーダーボードで上位に食い込んでいた正体不明のステルスモデル「Space Bunny」の正体を突き止める形で世に出たもので、MiniMax自身がSpace BunnyはM3.1 Flashの前期ビルドだったと明かしたという。
主張されるベンチマーク結果はDeepSWE 74%、Automation-Bench 62%、BabyVision 91%。従来のM3と比較してコストは3分の1、速度は3倍とされる。API価格は100万トークンあたり入力0.15ドル/出力0.60ドルで、キャッシュ読み込みは0.015ドル。weightsは10月23日に公開される予定で、公開までの期間、OpenRouter・OpenCode・Cline・Ollama Cloudで無料で試せるという。
ステルスモデルの実力をランキングで示してから正体を明かす流れは、ベンチマーク自己申告への不信が強まる中での実証アピールと読める。ただし数値は現時点でMiniMaxの主張であり、公開後の独立検証が待たれる。
Inceptionのdiffusion LLM「Mercury 3」──1,000 tok/s超を主張、Metaの30B「Muse Glimmer」も
モデル回りの動きはM3.1 Flashだけではない。Inceptionは拡散ベースのLLM「Mercury 3」を発表し、「現在までで最も強力なdiffusion LLM」と位置づけた。同社の主張では、GPT-6 LunaやHaiku 5.5を品質で上回りながら1,000トークン/秒超の生成速度を出すという。規模はMercury 1の40倍とされ、Mercury 1が約7Bだったとの仮定では280B超との非公式推定も出ている(未確認)。Baseten経由で100万トークンコンテキストで利用できる。
Metaは30Bのオープンウェイトエージェントモデル「Muse Glimmer」の技術レポートを公開した。4bit量子化でコンシューマーGPU1枚で動作することを想定したモデルで、学習ではMuse Sparkの学習中logitsからのfull-KL共蒸留を主軸に、最終5%はcross-entropyで仕上げるレシピが使われたという。数週間にわたるシミュレーション上の「digital lives」を経験させる学習手法も採用されたとされる。コンシューマーGPUで動くエージェント向けオープンモデルという位置づけが明確で、ローカルLLM勢には注目の1本だ。
動画生成では、falとBlack Forest Labsの「FLUX 3 Max」が10秒の動画を約12秒で生成すると発表された。画像→動画カテゴリで2位(統計的には1位と同率)とされ、720pで1分あたり10.20ドル、3週間は75%オフの価格設定という。
AIブラウザ7種でネットバンキング情報の窃取リスクを検証──ワシントン大の論文
AIエージェントがユーザーに代わってWeb操作を行う「AIブラウザ」の安全性を検証した研究が注目を集めている。米ワシントン大学の研究者らによる論文「Agentic Browsers and the Same-Origin Policy」で、ChatGPT AtlasなどAIブラウザ7種を対象に、メールやネットバンキングなどの機密情報が悪意あるサイトに窃取されるリスクが検証された。
Webセキュリティの根幹を支える同一生成元ポリシー(Same-Origin Policy)は、異なるサイト間でのデータアクセスをブラウザが阻止する仕組みだ。しかしページ内容をそのままLLMに読み込ませるAIブラウザでは、この境界がエージェントの操作として迂回されうる、というのが研究の着眼点となる。ネットバンキングにログインしたまま別の作業をAIブラウザに任せる、といった日常的な使い方がどのようなリスクを伴うか、具体的な検証結果は論文本体で確認してほしい。
ChatGPT広告は誰に何を表示?──米大学が91のおとりアカウントで実態調査
ChatGPTへの広告配信が始まった今、誰に・どんな基準で何が表示されているのかは外部からは見えにくい。米ペンシルベニア大学とハバフォード大学の研究者らは論文「The Beginning of ChatGPT Ads」で、91のおとりアカウントを作成してChatGPTの広告配信の実態を調査した。
おとりアカウントで様々な属性・興味関心を体系的に再現し、どんな広告が誰に表示されるかを観察する手法自体、ソーシャルメディア広告の研究で培われてきたものだ。それを対話型AIの広告に適用した最初期の研究といえ、パーソナライゼーションの実態やターゲティングの境界がどう可視化されていくか、今後の追加報告にも目が離せない。
ヘッジファンド、テック株を10年で最速ペースで削減──Goldmanプライムデスク
AI関連株の急落とそれに伴う市場の混乱は先日も伝えたが、その後も売り圧力が続いていたことが数値で裏付けられた。Goldman Sachsのプライムデスクによると、ヘッジファンドは10月15日までの5取引日で、2016年以降のデータの中で最大の割合となるテック株ポジションの削減を行ったという。少なくとも直近10年で最速の縮小ペースとなる。同時に総取引活動も約3ヶ月ぶりの低い水準で落ち込んだとしている。
前回触れたCoreWeaveの時価総額4分の1損失やneocloud淘汰観測と合わせると、AIバブルを巡る市場の懸念がヘッジファンドの実勢取引にまで浸透しつつあることになる。ただしこれは10月中旬までのデータであり、その後の半導体株反発の報道もあり、底打ちかどうかの判断はまだ材料待ちだ。
FTC、PublicisのLiveRamp買収を条件付きで認可──競合への平等アクセスとファイアウォール要求
米連邦取引委員会(FTC)は、フランスのメディア大手Publicis Groupeによるデータ接続大手LiveRamp Holdingsの22億ドル規模の買収について、条件を付けた上で完了を認める方針を明らかにした。PublicisがLiveRampのデータ接続サービスについて、Publicisの競合を含む全クライアントに非差別的なアクセスとサポートを提供すること、競合企業のデータを誤用から守るファイアウォールを構築することが条件。共和党系の2人のコミッショナーが同意命令に賛成票を投じた。条件の有効期間は5年間で、FTCの命令遵守を監視する独立監査人の任命も求められる。
広告とデータの結び付きがAIパーソナライゼーションでさらに強まっている今、買収によるデータの囲い込みへの規制は米欧で強まる傾向にある。ChatGPT広告の実態調査と合わせ、「AI時代の広告データを誰がどう管理するか」という論点が具体化していく流れと読める。
