10月12日夕方以降の収集分から、モデル・インフラ・研究・政策の4つの軸で動きを整理する。Metaは初の「フロンティアモデル」であるMuse Wonderでトップティアへの返り咲きを狙い、Microsoftは推論基盤を自社チップで置き換える計画を具体化した。研究面では自己改善と超長期学習の成果が、政策面では米英の安全検証協力が前進している。

Meta、初のフロンティアモデル「Muse Wonder」──10ベンチマーク中6つでトップ3、ただしコストは約3倍

Metaが新モデル「Muse Wonder」を公開した。The Decoderのまとめによれば、主要10ベンチマークのうち6つでトップ3に入り、とくにエージェント系タスクで大きな伸びを示したという。一方で、タスクあたりのコストは従来比で約3倍に膨らんでいる。

位置づけとしては、軽量・低レイテンシ狙いだった従来のMuse Sparkに対し、Wonder系はより大型で能力重視。コーディングなどの複雑タスクで高いベンチマークスコアと良い結果を出すとされる(TechCrunch)。WIREDは「Meta最大のモデルが世界最高峰と競合する」と評しつつ、エージェントが暴走するのを防ぐ新機能も搭載されたと伝えている。

トップティア復帰のかたちはつかんだものの、性能はベンチマークに現れ、コストは請求書に現れる。エージェント用途で安定して使えるかは、これからの実運用レポート待ちとなりそうだ。

Microsoft、自社チップ「Maia 300」を発表──2027年からギガワット級の主力推論基盤へ

Microsoftが最新の自社AIチップ「Azure Maia 300」を発表した。The Decoderの報じによると、同社は2027年からAzure Maiaを製品横断の主力AI推論システムとし、マルチギガワット規模で展開する計画だ。Maia 300は主要なGPUシステム比でメガワットあたり約40%多いトークンを処理できるとされる。Satya Nadella CEOはこれを「自社シリコンへの最大の賭け」と呼んでいる。

公式発表には、チップとモデルの共設計を担当するMustafa Suleyman氏(Microsoft AI CEO)をはじめ、インフラ責任者のコメントが並んでおり、単なるアクセラレータの更新ではなく、フロンティアモデル開発とデータセンター設計を一体で回す体制を示すリリースになっている。

GPU調達を外部に頼る構造は、ここ数年の供給制約とコスト高で各社の共通の悩みだった。NVIDIA依存を減らす動きが「実験」から「主力投入」の段階に移りつつある。

Karpathy氏「外部世界が見たのは予告編」──LLM未経験は世界人口の約75%、内部システムに触れるのは約5,000人

Anthropicに在籍するAndrej Karpathy氏が、LLMをめぐる知識格差について改めて言及した。前回取り上げた「LLM能力をめぐる共有理解のギャップは拡大している」という指摘の延長にある発言だ。

The Decoderの報じるところでは、世界人口の約75%はいまだLLMにほぼ触れておらず、一般の人が目にするのは「せいぜい奇妙なチャットボット」だという。一方で、企業内部のフロンティアシステムにアクセスできるのは約5,000人で、その人たちが使うエージェント群は、トップ専門家なら数年かかる仕事をこなす──「外部世界が見たのは、AIに実際にできることの予告編にすぎない」という指摘だ。

同じ技術でも、触れている層の経験値が桁違いに開いていく。開発者にとっては、自分が見ている景色がどちら側の景色なのかを時々確かめることが、判断の校正になりそうだ。

ホワイトハウスが方針転換──英AI安全性研究所のフロンティアモデル早期アクセスを復活

9月にトランプ政権がAnthropic・Google DeepMind・OpenAIに対し、英国のAI安全性研究所(AISI)へのモデル共有停止を指示していた問題で、ホワイトハウスが方針を転換し、同研究所の早期アクセスを復活させた(The Decoder)。英国のAI相Kanishka Narayan氏の外交努力が転換の引き金になったという。

政権交代後の米国では、AI安全検証をめぐる国際協力が一進一退を続けている。9月の共有停止指示は安全検証の土台を弱めるとの批判を受けており、今回の復活で当面の火消しとはなった。ただ、政権の意向ひとつでアクセスが増減する構造自体は変わっておらず、検証機関側の体制作りは続く。

Qwenの新RL基盤「QwenGyre」──70万トークンの超長期タスクでエージェントを訓練

Qwenチームが、極端に長いホライズンのエージェント訓練に特化したRLフレームワーク「QwenGyre」を公開した(r/LocalLLaMA、論文はarXiv掲載)。2つの柱で構成される。

1つは「Elastic Scheduler」。ロールアウト(推論)と訓練のあいだでGPUを需要に応じて再割り当てし、実行中のロールアウトは中断しない。Colocate構成比で最大1.85倍、Async構成比で1.78倍の高速化という。もう1つの「Trajectory Processor」は、コンパクション・サブエージェント・リトライなどで分岐する実行を、プレフィックスを共有する軌道ツリーとして扱い、重複を排いた学習サンプルを生成する。タイムアウト時の部分成果も評価対象にする設計だ。

Qwen3.8-2.4T-A95Bを1ロールアウト約70万トークンで学習させたところ、NL2RepoBenchが52.5%から58.5%へ向上し(48ステップ)、end-to-endの訓練時間はAsync比で約44%短縮されたという。エージェントの長期タスク学習をどうコスト効率よく回すかという、実運用のボトルネックに直撃する成果だ。

Sakana AIの自己改善手法「MASS」──対戦勝率約70%に到達、ただし「自分の盲点」は捉えられない

Sakana AIが発表した自己改善手法「MASS」は、単一の言語モデルが「課題を解く」「結果を判定する」「ワークフローを改善する」の3役を担い、自分自身を改善していく。2ラウンドの自己改善後、ベースモデルとの対戦勝率は約70%に達した(The Decoder)。

ただし弱点も明確だ。3つの役すべてが同じ誤りを見逃した場合、その誤りを「進捗」と誤認して学習で強化してしまう。改善する側と改善される側が同一である限り、共通の盲点は内側からは見えない──自己改善系研究の根本課題を改めて示した結果といえる。

関連して、Microsoftの研究チームは、自律エージェントが伸び続けるチャット文脈のせいで「idea basins」(抜け出せない局所解のような領域)に囚われ、より良い解へ到達できなくなる現象を報告した。チャット履歴を消去しつつワークスペースの状態は保持する「Fork-and-Flush」という手法で、同じ計算予算で最大66%良い結果を出せたという。文脈の長さが必ずしも資産にならない、というのは実運用のヒントになりそうだ。

小ネタ: MiniCPM-V 4.7、1ビットBoole-1.7B、川崎重工のホームロボット、Epic Gamesの「AI-first」

  • MiniCPM-V 4.7(openbmb): マルチモーダルモデルMiniCPM-Vシリーズの最新版。シリーズ初のMoE構成「35B-A3B」と「1B」の2種が公開された。Lookahead Expert Scheduling(LES)という手法により、性能を損なわずにiPhone 17 Pro Maxで毎秒13トークン以上のスムーズなオンデバイス推論を実現したという。1B版はQwen3.5 0.8Bを総合スコア・推論効率の両面で上回るとされる。
  • Boole-1.7B(Precision Numerics): Qwen3-1.7Bを1ビット量子化したモデル。重みは247MB(BF16比で13.9分の1)で、10タスク評価の平均スコアはBF16の85.9%を維持し、同種の1ビットBonsai-1.7Bを上回った。英語・非思考モードでの低レイテンシ用途向けで、ブラウザ上でも動作する。
  • 川崎重工「Home LEO」: 高齢者の在宅生活を支援するソーシャルロボットの試作機を発表し、2028年度の市場投入を予定していると明らかにした。
  • Epic Games: 従業員に「AI-first」な開発を指示したと報じられた。Disneyブランドのゲームを予定どおり完成させるためと伝えられており、Tim Sweeney CEOもXで、AIが同社の大きなピボットを可能にしていると投稿している。