AI開発を支える資金の流れが一段と大きくなっている。10月6日に報じられたところをまとめると、DeepSeekはCATLとTencentが参加する120億ドル超の資金調達ラウンドを進めており、OpenAIもUAE(アラブ首長国連邦)の投資ファンドやBlackRockと300億ドル規模の調達を協議中と伝えられた。モデルの内部構造では、MicrosoftがGPT-6シリーズで「Looped Transformers」を使用しているとする記述を公開ウェブページに掲載した後に削除したことが話題になった。OSS界隈ではTencentがセルフホストAIアシスタント「Octop」を公開。研究面ではJEPAを物理から生物まで広げる取り組みや、検索エージェントを高速化するSystem-1モデル「SearchJev」が注目を集めている。
巨大資金がAI開発に集中──DeepSeekは120億ドル超、OpenAIは300億ドル規模
Bloombergの報道をThe Decoderが伝えたところによると、DeepSeekは少なくとも120億ドルを調達する新ラウンドの実現に近づいている。このラウンドには中国の電池大手CATLとTencentが参加する見通しで、同社は2027年のIPO(新規株式公開)も視野に入れているという。
DeepSeekはコスト効率の高いモデルで業界の勢力図を変えた存在だ。仮に120億ドル超の資金が確定すれば、中国AI企業としては屈指の大型調達となる。効率的な学習という既存の強みに資金面の裏付けが加われば、モデル開発とインフラ拡張のペースがさらに上がる可能性がある。
同じくBloombergの報道によると、OpenAIは300億ドル規模の資金調達ラウンドにあたり、UAEの複数の投資ファンドと協議している。アブダビのMGXなどがラウンドの中心(アンカー)として名を挙げられており、UAE勢が共同出資団(シンジケート)を組んで合計最大100億ドルを出す案が議論されているという。
同じ日に報じられた2つの大型調達は、AI開発の頂点を争う企業への資金集中がさらに強まっていることを示唆する。国家系ファンドの資金が計算資源の確保競争とどう絡むかも、今後の注目点だ。
MicrosoftがGPT-6シリーズの「Looped Transformers」使用を記載──その後に削除
r/LocalLLaMAで注目を集めた投稿によると、Microsoftの公開ウェブページに、OpenAIがGPT-6シリーズで「Looped Transformers」を使用していることを裏付ける記述が確認された。投稿は、The Informationの先行報道が正しかったことの裏付けになると指摘している。
投稿が紹介した内容によると、GPT-6.1 Solは2つの推論パス(inference passes)を使う構成であることが記載されており、「3つではなく」との言及もあったという。また「GPT-6 Solと同じベースモデルの重み」との記載について投稿者は、両モデルが同一の事前学習済みベースモデルの上に載る事後学習モデルである(最終的な重みは同一ではない)という意味だと解釈している。
興味深いのは、Microsoftがその後この記述をウェブページから削除した点だ。誤掲載だったのか、公開予定のない内部情報だったのかは現時点では不明だが、フロンティアモデルのアーキテクチャについて公式側の資料から情報が漏れる形になったのは、モデル内部の非公開性が高い中では貴重な断面といえる。
TencentがセルフホストAIアシスタント「Octop」をOSS公開
Tencentのクラウド組織が、セルフホスト型のAIアシスタント「Octop」をオープンソースとして公開した。r/LocalLLaMAでの紹介によると、マルチエージェントアーキテクチャを採用し、チーム・家族・個人に対して独立しつつ協調的な知能環境を構築する。すべてがユーザー自身のマシン上で動く完全セルフホスト設計で、プライバシーを妥協しない点を売りにしている。
インターフェースも充実している。Webダッシュボード(チャット、専門家/チーム、コネクタ、チャンネル、cron、ナレッジ、プラグイン、設定)、Windows/macOS/Linuxのネイティブデスクトップアプリ、CLI、HTTP/SSE/WebSocket API、ホスト側のデスクトップセッションを操作するリモートデスクトップ機能が、単一プロセスの起動で利用できる。デプロイはデスクトップアプリまたはDockerで行える。
クラウド前提のAIアシスタントが増える中、大手がフルスタックのセルフホスト基盤をOSSとして提供するのは珍しい。GitHubとHacker News、Redditで即座に取り上げられたように、データを手元に置きたい個人や企業にとって選択肢が増える意味は大きそうだ。
米第3巡回控訴裁「AI学習はフェアユースではない」
米国の連邦第3巡回控訴裁が、著作権で保護された素材をAIモデルの学習に使うことはフェアユース(公正利用)に当たらないとの判断を示したと、Courthouse Newsが報じた。Hacker Newsでも取り上げられ、議論を呼んでいる。
学習データの著作権をめぐる訴訟は米国で相次いでおり、控訴審レベルで「学習はフェアユースではない」という判断が報じられた意味は小さくない。ただし報道からは事件の背景や判断理由の詳細は読み取れず、上級審での展開や他の巡回区での判断との整合性など、今後の動向を見る必要がある。
PhAI LabsがLeCunのJEPAを物理から生物へ──肝がん治療候補も
The Decoderの報道によると、PhAI Labsの研究チームが、Yann LeCun氏が提唱したJEPA(混合埋め込み予測アーキテクチャ)を、物理学から生物学まで7つの分野で動く汎用世界モデルへ拡張する取り組みを進めている。JEPAは出力をそのまま生成するのではなく抽象的な表現空間で予測を行うアーキテクチャで、世界モデルの実現方式の一つとして知られてきた。
今回の取り組みでは、ロボティクスから生物医学まで幅広い領域への適用が試みられたほか、付随する成果として肝がんの治療候補が1つ生成され、ラボでの試験で有望な結果を示したという。ただし同記事は、この成果が実際の治療になり得るかどうかは今回の研究では確立されていないと但し書きしている。
特定分野向けのモデルを横断する「汎用」世界モデルは、物理シミュレーションから創薬までを1つの基盤で扱える可能性を示すものだ。AIの応用範囲を広げる研究潮流として注目に値する。
検索エージェントを高速化する「SearchJev」──System-1モデルとの分業
Hugging Face Daily Papersで取り上げられた「SearchJev」は、検索エージェントが繰り返す小さな判断──この文章は関連があるか、証拠は十分か、次にどのリンクを開くか──を、高速で較正された確率を返す小規模モデル(System 1)に任せるアプローチだ。大きなLLMによる重い推論(System 2)は、確信度の低い判断への対応と、計画・検索語生成・最終回答に専念させる。
投稿によると、SearchDecision-Benchでは同サイズのQwen3.5と比べて判断が5.2〜5.3倍高速で、平均較正誤差は41〜74%低く、6種類の判断すべてで品質が上回った。実タスクのBrowseComp-Plusでは能動的な検索が3.7〜4.7倍速くなり、System 2単体の正答率45%が最高54%まで向上したという。既存のJev 1.13との比較では、SearchJev-4Bが正答率を46%から54%へ引き上げ、SearchJev-0.8Bは15%短い検索時間で46%を維持した。
エージェントのレイテンシとコストは実用化の壁の一つであり、判断の一部を安く速いモデルに任せる分業設計は実践的な方向性といえる。モデルを速い思考と遅い思考に振り分ける構成として、今後のエージェント実装への影響が注目される。
