2026年9月30日の海外AIニュースから、日本の読者に特に影響が大きい司法判断から、インターネット基盤の未来準備まで、6つのトピックを整理する。
東京地裁、AIによる声の複製を「権利侵害」と判断
俳優・津田健次郎さんの声をAIツールが複製したのは権利侵害に当たる──そうした判断を東京の裁判所が下したことが9月30日、明らかになった。英Guardian紙が報じ、海外の技術コミュニティでも注目を集めている。
生成AIを使えば「誰の声でも再現できる」時代になった今、声を名前や肖像と同じように人格権・財産権として保護するのかという論点に、日本の裁判所が一つの判断を示した形だ。詳細な判決内容は今後公開される見通しだが、声優・俳優・ナレーションという「声」が仕事の業界では、契約やライセンスの実務に影響が広がる可能性がある。
Anthropic、Zhipu「GLM-5.3」の攻撃能力に警鐘──米CAISIの評価を裏付け
前回紹介した米政府機関CAISIによるZhipu「GLM-5.3」のサイバー能力評価に続く展開として、Anthropicが同モデルの分析を公表した。それによると、オープンウェイトのGLM-5.3は、サイバー攻撃に使うエクスプロイトの作成において、自社のClaude Mythos Previewにほぼ匹敵する性能を持つという。小型版のGLM-5.3 Flashは、ZhipuのAPI価格でわずか20.40ドルのコストで、信頼性のあるChrome攻撃コードを組み立てたとされる。
さらに問題視されるのは、モデルのセーフガードが比較的容易に除去でき、制限を外した版が既に出回っていることだ。Anthropic自身が競合モデルの危険性を強調する立場にある点は割り引いて読む必要があるが、CAISIも同様の調査結果を出しており、懸念は業界横断とみられる。ダウンロード後に開発元のコントロールが及ばないオープンウェイトモデル特有の構造問題が、改めて浮き彫りになった。
DeepSeek、華為「Ascend 950」でモデル訓練へ
中国DeepSeekが、ファーウェイ(華為)のAIチップ「Ascend 950」でモデルの訓練を行っていることが分かり、RedditのLocalLLaMAコミュニティで話題になっている。2年ほど前にDeepSeek創業者の梁文鋒氏が語った「誰かがフロンティア(最前線)に踏み出さなければならない」という言葉が、米国の半導体輸出規制と重ねて引用されている。
規制強化の狙いは中国AIの計算能力を制限することだったが、その圧力が中国国内チップとソフトウェアスタックの成熟を早める側面もあった。最先端モデルの訓練を国産チップで行うならば、規制の実効性をめぐる議論に影響しそうだ。訓練の規模や完成モデルの性能が今後どこまで公開されるかが焦点となる。
GoogleのAI回答、出版社への支払いは「ごく一部にごくわずか」
The Informationの報道を受け、The Decoderが伝えたところによると、GoogleはAI Overviews・AI Mode・Geminiで使うコンテンツについて約100のデジタル出版社に支払いを行っているが、額は数ヶ月で1,000ドル未満のところから、年間100万ドル超の大手まで大きく割れているという。支払い額の計算方法を把握していない参加者もおり、より高い単価を求めて契約を見送る大手出版社もあるとされる。
検索に代わってAIが直接回答を返すようになると、出版社側はトラフィックと収益の源を失いつつある。約100社という対象の狭さと、多くが「いくらもらえているか分からない」という状況は、AI時代のコンテンツ経済がまだ設計途中であることを示している。日本のメディアにも同じ構図がそのまま当てはまる問題だ。
Cloudflare、量子安全TLS証明書の発行を計画──WebPKIの大改修が始動
Cloudflareが、量子コンピュータの攻撃にも耐えるとされるポスト量子暗号を使ったTLS証明書の発行を計画していると発表した。同社はこうした証明書を発行する最初期の認証局の一つとなる見込みだ。
技術面では、従来型TLS証明書とポスト量子版の「Merkle Tree Certificates」の両方を発行できるオープンソースプラットフォームを採用。ハイブリッド証明書は有料・無料ユーザーとも無償で提供され、切り替えは性能低下なしで数百万のウェブサイトに適用できるという。仕組みの普及のため、認証局GlobalSignから信頼済みルートを取得することも明らかにした。
量子コンピュータで現在の暗号が解読される時代を見据え、「今の暗号通信を盗んでおき、後で解読する(harvest now, decrypt later)」攻撃への備えは早めに必要とされる。OS・ブラウザ・認証局などエコシステム全体の改修には数年かかる見通しで、インターネット基盤の長い移行がようやく動き始めた。
HBO Max、有料会員にAI生成のカジノ広告を表示
広告ブロック企業AdGuardの調査で、動画配信サービスHBO Maxが有料サブスクリプション会員に対し、AI生成とみられるカジノ系の広告を表示している実態が分かった。いわゆる「AIスロップ」と呼ばれる低品質な生成コンテンツが、課金ユーザーの視聴体験に挿し込まれているとして批判が出ている。
生成AIで大量生産した広告は制作コストが低く、プラットフォームの収益には好都合だが、視聴者には品質低下として映る。「お金を払っているのに広告が出る」ことへの不満は以前からあったが、その広告自体がAIの量産品になれば、サービスの価値をめぐる議論はさらに混み入りしそうだ。
