9月15日、「AIを速くする」側の動きと「AIの行方を案じる」声が同時に届いた一日だった。NVIDIAは推論特化NPUの新興Rebellionsとの協議が進んでいると報じられ、米中では「AI戦略対話」の枠組みが浮上。The GuardianにはGoogle DeepMindで働いた経験を持つ人物の警告が掲載された。製品・研究面では、話しかけながら編集できる動画生成Vidu S2と、拡散言語モデルをGUIエージェントに仕立てるLLaDA-UIが頭角を現す。国内ではファナックのAI溶接エージェントなど、製造現場へのフィジカルAI浸透も進んだ。

NVIDIA、推論NPU新興Rebellionsと協議──出資・買収も視野

EE Times Japanの報道によると、NVIDIAは韓国のスタートアップRebellionsと協議を行っているという。Rebellionsは推論用NPU(Neural Processing Unit)に強みを持つ企業で、協議は技術提携のみならず、出資や買収も視野に入れているとされる。

生成AIの処理需要が「学習」から「推論」へ重心を移す中、推論の効率を左右する専用アクセラレータの価値が高まっている。CUDAエコシステムで圧倒的な支配力を持つNVIDIAが、推論特化の技術を外部から取り込もうとしているのは、次の競争フェーズの地ならしと読める。もっとも現時点では協議段階とされ、成否はこれからだ。

米中で「AI戦略対話」浮上──オープンソース界隈は「AI減速」に冷ややか

中国専門ニュースレターSinocismが、米中間で「戦略AI対話」の設置が協議されていると伝えた(Hacker News経由)。詳細は報道段階にとどまるが、規制と競争が絡み合う両国の間に公式な対話の枠組みが浮かびつつあるのは注目に値する。

一方、開発者コミュニティでは「AI減速」論そのものへの冷ややかな目も目立つ。RedditのLocalLLaMAには「『AIが乗っ取る』という物語は2019年以来のマーケティングにすぎない」と投稿するユーザーが現れ、スレッドでは中国官紙がAnthropicの減速要請を「冷戦の戦術」と批判したReuters報道も引き合いに出された。加速と慎重の分断が、政治の世界だけでなく現場の開発者の間にも浸透しつつある。

「DeepMindで働いた。警告に耳を傾けて」──Guardianに元社員の寄稿

The Guardianに、Google DeepMindで働いた経験を持つ人物による「AIに関する警告を軽視すべきではない」と訴える寄稿が掲載された(Hacker News経由)。内部での経験を踏まえた警告という体裁で、加速報道が続く中で対軸となる声として拡散している。

本ブログでも紹介してきた通り、ここ数日は「減速」を求める声と「加速」を押し切る声が激しく交錯している。当事者の一人が大手紙で発信したことで、この議論は今後さらに色づきそうだ。

Vidu S2──話しかけて、その場で編集できるリアルタイム動画生成

動画生成モデル「Vidu S2」が、リアルタイムで対話・指示・編集できるシステムとして発表された(Hugging Face Daily Papers経由)。要点を整理すると次の通りだ。

  • S2-Avatar: 720p・25〜42FPSで動くインタラクティブキャラクター。会話の途中で新しい参照画像を渡して衣装を変え、オブジェクトを持たせ、シーンを切り替えられる
  • S2-Editing: 入力動画の動きとタイミングを保ったまま、スタイル変換・バーチャル試着・キャラクターや背景の差し替えをリアルタイムに行う
  • 空間動画: 生成キャラクターやライブ編集を立体視動画に持ち込み、没入型VR体験を狙う

評価では、アバター生成と動画編集にまたがる5つの公開ベンチマークすべてでSOTAを達成したとしている。生成と応答が同時進行する動画は、配信やアバター応用の地平を広げる。実運用での品質とレイテンシはこれからの検証待ちだ。

拡散言語モデルをGUIエージェントに──LLaDA-UI

拡散大規模言語モデル(dLLM)をマルチモーダルGUIエージェントに拡張した「LLaDA-UI」も同日に登場した。16.7BパラメータのMoE構成で、ネイティブ解像度のビジョンエンコーダを拡散言語バックボーン「LLaDA2.0-mini-base」と組み合わせたのち、モバイル・デスクトップ・WebのGUIデータでファインチューニングする2段階の訓練パイプラインを採用する。

結果は好調で、グランディング系と複数プラットフォームのナビゲーション系ベンチマークでQwen2.5-VL-7Bを大きく上回り、報告された6つのGUIベンチマークのうち4つではQwen3-VL-8Bをも超えたという。GUI操作は「画面状態を繰り返し知覚し、空間に位置づけられた操作を即時に出す」仕事であり、ブロック単位の並列生成で低レイテンシを実現するdLLMと相性が良い。拡散系言語モデルの応用範囲が、テキスト生成からUI操作へ広がった意義は小さくない。

国内製造現場へ浸透するフィジカルAI──ファナック、UR、GMO

国内にも動きがある。ファナックは、部品の図面を読み取りロボットがアーク溶接を行う「AI溶接エージェント」を開発した。溶接条件やロボット動作を自動生成し、熟練作業の自動化を狙う。

ユニバーサルロボット(UR)は、フィジカルAI対応の新たな協働ロボットプラットフォーム「Gen 7」を発表した。2026年10月以降に順次出荷を開始し、2027年にはGPUを搭載する計画。AIの成果を製造現場へ円滑に展開する基盤として設計されている。

さらに、GMOインターネットグループのGMO天秤AIが「東京大学発行のメールアドレスを持つ学生にAIを無料提供する」と発表して話題になった。同社は「本サービスは東京大学とは無関係」とも明記しており、大学公認でない民間施策としてSNSで注目を集めている。

RTX 3090で90TPS超──Ampere特化llama.cppフォークと「元が取れるまで」計算ツール

ローカルLLM界隈も賑やかだ。RedditのLocalLLaMAに投稿されたllama.cppのカスタムフォーク「llamAmpere」は、Ampereアーキテクチャ特化の最適化によって(BlackwellやLovelaceにも好影響とされる)、27Bクラスの量子化モデルで90TPS以上・最大240Kトークンのコンテキストを実現する構成を公開している。投稿者は「3090で27BがAPI並みの速度で動くようになり、モデルとカードの有用性が一段と上がった」と語る。

同じ頃Show HNに登場した「Sunk Cost」は、「ローカルLLMリグはいつ元が取れるか」を計算するツールだ。マシン・モデル・1日のトークン使用量を入力すると、トークン課金のAPIと比較して投資回収までの期間を試算できる。「Macを買ってローカルで回せば元が取れる」という言説を数字で検証できる、シンプルだが実用的な一作だ。


加速のための投資、加速を巡る対話、そして現場への浸透。レイヤーの違う3つの流れが同時に進む──それが今週のAIを特徴づける空気だとすれば、この日のニュースはその縮図と言えそうだ。