9月15日、「AIを減速させるな」の声が産業界と政権の双方からそろって放たれた。Nvidiaのイェンセン・フアンCEOはトランプ大統領に向けて「AI減速は起こさせない」と直言し、トランプ氏もAnthropicのダリオ・アモデイCEOを名指しで批判した。一方、DeepSeekのエンジニアが「半年後には自分の書くオペレータをAIが超える」と綴った回想録が注目を集めるなど、加速の波は開発現場にも確実に届き始めている。
フアンCEO「AI減速は起こさせない」──トランプ氏もアモデイ氏を名指し批判
TechCrunchの報道によると、Nvidiaのイェンセン・フアンCEOはトランプ大統領に対し、AI開発のペース減速について「我々はそれを起こさせない」と述べた。イーロン・マスク氏やサム・アルトマン氏がアモデイ氏の減速呼びかけを支持する中、フアン氏は明確に異なる立場を示した形だ。
これに先立ちトランプ氏はSNSへの投稿で、AIに必要なガードレールは「強く賢い大統領」だけで十分だとし、AI企業に対する刑事・規制上の強い権限を強調。アモデイ氏を「完璧な小さい天使のふり」と名指しで批判し、AI開発を妨げる動きを中国を利する陰謀だと非難した(ITmedia)。
一方、議会側では締め付けを求める声が強まっている。元FTC(連邦取引委員会)のリナ・カーン前委員長は1934年の先例を引き、AI企業のCEOには「手錠」、つまり刑事責任が必要だと主張した(The Register)。バーニー・サンダース上院議員が超知能AIの開発者に懲役20年を課す案を提起したとも報じられている。
なぜ重要か。前日までの「トランプ氏が減速要請を拒否」という段階から一歩進み、GPU供給の筆頭企業であるNvidiaのCEOが政権相手に反対を明言した。行政と産業側の「加速」と、議会・一部経営者の「規制」の温度差が、今後の立法の行方を左右しそうだ。
DeepSeekエンジニアの回想録「才能を昨日に埋める」
RedditのLocalLLaMAコミュニティで、DeepSeekのエンジニアが綴った回想録が注目を集めている(原文は中国語ブログの英訳とされる)。
書き手はDeepSeek v4.1の主要なAttentionオペレータを担当した人物だ。それだけに、出自を次のように振り返る観察には重みがある。1年前はドキュメントを調べ、コードを読み、バグを見つける「小さな助手」だったAIが、今ではCUDA・PTX・SASSを読み解き、専門ツールで命令ごとのストール時間を解析し、自力でオペレータを最適化する「専門家」になったという。
「AIは1秒に300トークン思考し、0.5秒でコマンドを打ち、20秒でコードを書き終える。私はそれができない」。書き手は半年から1年もすれば、AIの書くオペレータは自分のものと同等かそれ以上になると見なし、職を失うことはなくても、愛してきたオペレータ設計の分野を離れ「エージェントのメカパイロット」へ転身せざるを得ないだろうとつづる。
特に印象的なのは、手編みセーター職人が自動編み機の登場に向き合う喩えだ。仕事は残っても、窓辺で針を静かに動かす喜びは機械の音に押し潰される。それでも「革命されるなら、革命するのは自分自身であってほしい」と、最前線に立ち続ける理由を記している。
Occamy-1.0──「1ドルあたりの知能」を最大化する35Bオープンモデル
Hugging Face Daily Papersで取り上げられたOccamy-1.0は、35Bパラメータのオープンモデルとして「パレートフロンティア」を掲げる。開発側の説明によると、エージェントは1つのタスクでモデルを何百回も呼び出すため、「1ドルあたりの知能」は「1呼びあたりの知能」と同じくらい重要な指標になるという。
エージェントの実仕事(co-work)を見据え、少ない計算資源で実用的な知能を提供するのが狙いで、「less compute, serious work(より少ない計算で、真剣な仕事を)」とされる。詳細なベンチマーク数値は現時点では公開要約の範囲にとどまるが、コスト制約の厳しいエージェント運用での選択肢が増えそうだ。
Qwen3.8-Flash-Nextを12GB VRAMで約20 tok/s──ローカル実行の最前線
LocalLLaMAに投稿された検証レポートが実践的で興味深い。RTX 4070(12GB VRAM)+64GB DDR5-5600+Gen4 NVMeという中堅構成で、125B-A6BのMoEモデルQwen3.8-Flash-Next(51Bのn-gramテーブル込み)を動かすという内容だ。
最初は6 tok/sほどだった生成速度が、4.27bpwの量子化、n-gramテーブルのSSDオフロード、MoE改善パッチの適用を重ねて19〜20 tok/s台まで向上したという。さらに未マージのMTP(マルチトークン予測)PRとコンパクトなMTPヘッドを組み合わせると、予測受け入れ率77〜96%で20 tok/sの壁を突破したとされる。
投稿者は「このマシンで出せる最大の知能」と評価する。VRAM不足で27Bのdenseモデルが選べない構成では、高速なRAMを活かしたMoE+オフロードが逆転の発想になる。低VRAM・大容量RAM環境のユーザーにとって参考になる検証だ。
ReactHuman──ロボット頭脳の「とっさの回避」は3回に1回失敗
Hugging Face Daily Papersに掲載されたReactHumanは、身体性マルチモーダルLLM(MLLM)をシミュレーション上のヒューマノイドの頭脳に見立て、突然の家庭内危険への反応を測る、初の物理接地型ベンチマークだ。
滑り落ちる皿をキャッチする、落ちてくるナイフをよける──こうした反応能力は、動画Q&A形式の受動的な物理理解評価では測れない。ReactHumanは17のイベントファミリーと1,000以上のシーンを240Hzの剛体シミュレーションで完全再現可能にし、注釈不要の正解を導出する。外観と物理が矛盾する「フォームの金床」や「鋼のリンゴ」のような敵対的オブジェクトも含まれている。
7つの代表的MLLMを評価した結果は厳しい。およそ3回に1回は危険への対処に失敗し、観察した場面ではなく固定的な傾向で行動し、運動よりも見た目を信頼し、正しい行動を選んでもインターセプト点をメートル単位で外す。しかも、これらの失敗はモデルのスケールアップでは縮まらなかったという。家庭ロボットの実用化に立ちはだかる課題を、きめ細かい診断として示した研究といえる。
「AIボットのトラフィックが制御不能」──ウェブ運営者の悲鳴
Hacker NewsのAsk欄で、静的生成の5万ページを抱えるウェブアプリ運営者の訴えが議論を呼んでいる。
それによると、Facebookのクローラーだけで2日間に300万回以上の同じページへのリクエストが発生。VercelとCloudflareで可能な限りブロックしても、AIスクレイパーはレジデンシャルプロキシ経由でリクエストを送り、Cloudflare Turnstile付きの認証ゲートの内側に入るためのアカウントまで作成するという。ホスティングコストは急騰し、「もうウェブ上で読むもの・見るものを何も信じられない」と疲弊を吐露。最後の手段として、次はhCaptchaへの切り替えを試みる予定だという。
生成AIの学習・検索ボット対策は、robots.txtやIPブロックの域を超えつつある。コンテンツ側とクローラー側のイタチごっこが、今後のウェブの維持コストを左右しそうだ。
