8月20日(日本時間)のAIニュースから、日本国内の2つの話題(note記事のAI制作公表と生産性調査)、研究系ではDepth Anything V4と実体追跡能力の創発、ループ型LMの3論文、ローカルLLMの実測報告、多言語安全性の評価ベンチの7本をまとめました。
エイベックス松浦会長、noteの“バズり記事”を「ほぼAI」で制作と公表
エイベックスの松浦勝人会長が、8月13日から「note」に投稿している記事について、ほとんどをAIで作成していたと自身のXアカウントで明かしました。「僕の60年分のデータを入れた」とも述べており、自身の語録や思考を学習させた上での文章生成だったことがうかがえます。
著名人が実名で記事を公開し、後から「ほぼAI」と明かす形は珍しく、反応を呼びそうです。人が読んでバズった記事の多くがAI製だったという事実は、日本語コンテンツの生成品質が実用域に達していることを示す一方で、署名記事の真正性をめぐる議論を呼ぶ可能性もあります。
アクセンチュア調査:AI生産性向上の実感、日本は57% ― 世界平均は81%
アクセンチュアが世界20カ国の従業員を対象に実施した調査で、AIによる生産性向上を実感している日本の従業員は57%にとどまり、世界平均の81%を24ポイント下回ることが分かりました。
仕事の満足度や成果の実感でも世界との差が開いており、同社は人材と組織の変革が課題だと指摘しています。ツールの導入状況だけでなく、業務プロセスや組織文化を含めた変革なしには、AIの生産性効果が個人の実感に結びつかないことを示すデータと言えそうです。
Depth Anything V4 ― 単眼動画から動的な4Dシーンを再構成
深度推定シリーズの最新版にあたる「Depth Anything V4(DAV4)」がarXivに公開されました。単眼動画から動的4Dシーンを再構成するフレームワークで、Riemannian Flow Matchingを4D Gaussian Splattingのパラメータに直接適用するのが特徴です。スケール・回転・不透明度といった非ユークリッド多様体の上に確率経路を定義することで、生成の中間状態が常に妥当な範囲に収まるようにしています。
効果の切り分けも丁寧で、同じデータ・アーキテクチャ・テスト時最適化の決定論的MLPベースラインがF-score 0.762であるのに対し、RFMでは0.806。この+0.044がRFM単独の寄与とされています。事前学習コストは360 GPU時間で、1万シーン超の大規模運用なら償却できる計算です。人手の深度ラベルを教師に使わずに、従来のDepth Anythingシリーズやシーン単位の4D-GSを動的再構成・新規視点合成で上回ったと報告されています。
「実体追跡」は4.1億パラメータで人間水準に ― 小型モデルの能力創発
言語理解には、明示されない情報も含めて「何がどこにあって、どう変わったか」を談話全体で追跡する能力が必要です。今回arXivに公開された研究は、この実体追跡(entity tracking)を自然な物語を使って言語モデルと人間(48名)で比較しました。
人間では追跡精度は物語の「長さ」ではなく「複雑さ」に応じて劣化する一方、言語モデルでは4.1億パラメータという小型スケールで既に人間水準に達し、スケールとともに向上、現行モデルは人間の性能を大きく上回ることが示されました。従来の研究は数十億パラメータ級のコード特化モデルを対象にしており、言語理解の中核能力が想定よりずっと小さいモデルで創発している点が注目されます。
ループ型LMの3論文 ― 反復する「深さ」の設計がそろう
テスト時に同じレイヤを繰り返し適用して計算量を増やす「ループ型言語モデル」について、同日に3本の論文がarXivに揃いました。
1本目はツール呼び出しへの応用です。複数のAPI呼び出しを依存関係を保ちながら組み合わせる構成的なタスク(API-Bank、BFCL、NESTful)で、反復計算は依存関係を要する複雑な呼び出しで効果を示し、多段階ツール利用の精度は反復深度とともに向上。必要な時だけ計算を増やす適応的推論が、計算対性能のトレードオフで有利だと報告しています。
2本目は「反復を増やしても安全か」という問いです。追加の反復が答案を改善・維持・劣化のいずれにするかは、学習された演算子の力学的な性質(settling/marginal/drifting)から予測できるとし、「settling」な演算子は深度を増やしても劣化せず、数独では訓練範囲を超えた難度で精度が0.19から0.34に向上したとしています。
3本目は「何をループすべきか」の切り口です。ミキサーだけを反復しFFNは1回だけ適用する「MixerLoop」を提案し、1億1,000万パラメータではフル反復の改善の41.5%を維持しつつ、反復部のFLOPsを45.9%削減できたとしています。推論時計算のスケーリングをアーキテクチャ側から制御する研究が一段とそろってきた印象です。
35BのMoE「Ornith-1.5-35B-A3B」Q4量子化がRTX 4070 Tiで60トークン/秒
Redditのr/LocalLLaMAで、12GB VRAMのGeForce RTX 4070 Tiで35BクラスのMoEモデル「Ornith-1.5-35B-A3B」をQ4_K_M量子化(総ウェイト約20GB)で動かし、約60トークン/秒を出したという実測報告が投稿されました。
環境はCore i9-13900KFと32GBメモリ、llama.cpp(b10470)です。ポイントはエキスパートの配置で、アクティブなエキスパートをできるだけVRAMに載せ、残りをシステムメモリにオフロード。エキスパート数を27にすることでKVキャッシュ用に約1GBを残しているとのことです。ハイエンドGPU複数枚が前提になりがちなローカルLLM議論において、単体のミドルレンジGPUで実用速度を出す構成は参考になりそうです。
LLMの多言語安全性ギャップを測る「INCLUDE」ベンチ
LLMの安全アライメントは英語中心に設計されており、非英語ではフィルタが失效しやすいことが以前から指摘されてきました。新ベンチマーク「INCLUDE」は、英語・ヒンディー語・ベンガル語・マラーティー語・タミル語・ヒングリッシュ(ヒンディー語と英語の混交)の6言語・2,604プロンプトで、インド文化的文脈のバイアスを測定します。
オープンソース・クローズドソース合わせた10モデル・14,988件のバイアススコア分析では、オープンソースモデルはベンガル語で平均バイアスが最も高かった一方、英語はオープンソースでは最も低くクローズドソースでは最も高いという逆転が見られたのが主要な結果です。音声対話システムなどユーザーに直接届く出力を念頭に置いた評価であり、日本語を含む非英語圏での安全性評価の充実が求められる理由を改めて示す内容です。
まとめ
日本では「AIで書いた」ことを著名人自ら公表する動きと、生産性実感の世界との差という、AI受容の明暗両面が同時に見えた形です。研究面では、言語理解の中核能力が想定より小さいスケールで創発することや、推論時の計算配分をアーキテクチャから制御する流れがさらに明確になりました。
