Tencentが770B級のオープンウェイトを投放し、OpenAIの経営陣がAGI時期を具体的に語るなど、モデルをめぐる話題が大きく動いた一日だった。399ドルの小型ロボットが予想外の勢いで売れる一方、評価の信頼性やエッジNPUの実態を掘り下げる報告も並んだ。
Tencent「Hy4-preview」──総770B・活性化49B・1MコンテキストのMoEフラッグシップ
TencentのHy Teamが新世代フラッグシップモデル「Hy4-preview」のウェイトをHugging Faceで公開した。総パラメータ770B、うちトークンあたり49Bを活性化するMoE構造で、r/LocalLLaMAにも即座に投稿が立ち、オープンモデル界隈で話題になっている。
構成を見ると、78層のバックボーンのうち最初の1層を除く77層がMoEで、256のルーティングエキスパートと1つの共有エキスパートを持ち、各トークンは上位8エキスパートと共有エキスパートを活性化する。コンテキスト長は1Mトークン。投機的デコード用のネイティブMTP層(総10B・活性化0.7B)を内蔵している点も特徴だ。アテンションはDeepSeekとGLMに影響を受けたという「Gated DSA(Gated DeepSeek Sparse Attention)」を採用し、層をまたいだ疎インデックスの再利用(IndexCache)を組み合わせる。残差経路にはiHC(identity Hyper-Connections)で層間の情報流を広げている。
出来栄えについてチームは、163人の社内専門家が203件のエンジニアリングタスクでブラインド側面比較を行った結果を公開している。それによるとGLM 5.3に対して平均スコア2.99対2.92(勝率46.8%・引き分け12.8%)、Kimi K3に対して2.99対2.94(勝率51.2%)と、いずれも僅差で上回ったという。ソフトウェア開発・オフィスと分析・ゲーム開発・科学研究の4領域の実務データを中心に学習させ、Tencent内のCodeBuddy/WorkBuddyという製品と共同設計している。
一方で「複雑なタスクで必要以上に長く考える」「自分の作業を過剰に検証する」といった既知の問題も明かし、「早く出して壊れた声を聞く」というHy3 previewと同じ方針で改良を続けるとしている。770B級をそのまま手元で回すのは難しいが、量子化版や派生レシピの登場が期待されるリリースだ。
OpenAI、2026年末の「AGI」宣言へ──Astraは「自動化AI研究インターン」
OpenAIのAGI時期をめぐる経営陣の発言が具体化しつつある。Latent Spaceのまとめによると、チーフサイエンティストのJakub Pachocki氏は未リリースの「Astra」モデルについて、自身が2026年9月目標としていた「Automated AI Research Intern(自動化AI研究インターン)」に該当すると説明した。さらにSam Altman氏もTIME誌のインタビューで、2026年12月までに社内でAGI達成を宣言する見込みだと述べたという。
前回伝えたAltman氏の「2026年末にAGI」という発言に加え、今回の新しい要素は「研究を自動化するエージェント」という具体像がチーフサイエンティスト自身の口から語られたことだ。もっともAGIの定義は流動的で、達成宣言を外部から検証する手段も確立されていない。「社内宣言」という形である以上、判断材料は当面限られそうだ。
399ドルのあひる型ロボット「Microduck」、5秒に1台ペースで売れる
Pollen RoboticsとHugging Faceが共同開発した25cmの二足歩行ロボット「Microduck」が399ドルで予約受付を開始した。ITmediaの報道によると、強化学習による動作学習に特化し、SDKやシミュレーターをOSSとして公開。家庭や教室で安全に試行錯誤できる「行動するAIのためのプラットフォーム」を目指すという。
Latent Spaceのまとめによると、15個のアクチュエータにカメラ・スピーカー・LiDAR・NFC・Bluetooth・Wi-Fiというセンサー構成。Hugging Face Spaceで公開中のシミュレータで訓練したポリシーをそのまま実機へ転送でき、複数の事前学習済みポリシーも同梱される。Thom Wolf氏は画像認識を組み合わせてレーザーポインタを追わせる実験を披露したほか、販売ペースが「5秒に1台」、その後売上が100万ドルに達したと報告している。クリスマス前の出荷を計画しており、研究者からの購入も相次いでいるという。低価格・オープンな身体的AIの実験材料として、かなり注目度の高いローンチだ。
「半導体はAIが設計、人間は監督に」──キーサイトが次世代EDAの方向性
計測機器大手のキーサイト・テクノロジーは8月26日、エンジニア向けイベント「KDES」に合わせたメディアブリーフィングで「AI時代の次世代半導体設計」をテーマに、AIを活用したEDA、光半導体設計、マルチフィジックス対応シミュレーションなどの取り組みを紹介した(EE Times Japan)。「半導体はAIが設計、人間は監督に」というフレーズが示す通り、設計作業のAIへの移管と人間の監督役へのシフトを明確に打り出した形だ。AI需要で設計の複雑化が進む中、EDA側も生成AIの波を直接的に受けつつある。
LLM評価者は「前のスコア」に引きずられる──アンカリングバイアスの指摘
LLMを評価者として使うLLM-as-a-Judgeの構造的弱点を指摘する論文がarXivに公開された。「Anchoring Bias in LLM-as-a-Judge Systems: Prior Scores Compromise Evaluation」は、評価の前に提示されたスコア(先行評価)がその後の判断を引きずる「アンカリングバイアス」がLLM評価者にも発生し、評価の妥当性を損なうと指摘する。人間の認知で知られるバイアスと同じ構造の問題がモデルにも現れるとすれば、評価結果の提示順や履歴の設計そのものがベンチマークの信頼性を左右しうる。AIによる自動評価が広がる中、評価器の側をどう健全に保つかという問いは今後さらに重要になりそうだ。
24 TOPSのNPUでllama.cppを直接動かす──リバースエンジニアリングの成果とOrnith 1.5の実戦編
エッジNPUの実態を掘り下げる興味深い報告がr/LocalLLaMAに投稿された。M5Stackの「LLM-8850」カード(Axera AX8850 NPU、24 TOPS、8GB LPDDR4x)をRaspberry Pi 5でホストし、llama.cppのバックエンドとして動かす試みだ。
ベンダー製ツールチェーンはモデルごとの変換を要求し、クローズドなランタイムは13.5〜14.5トークン/秒にとどまる。そこで投稿者はエンジンフォーマット(.axmodel)をリバースエンジニアリングした。int8ウェイトが2つのニブルプレーン(粗いバイトと細かいバイト)として保存されるレイアウトを、座標を自己エンコードしたマーカー重みを約10パターン作って差分比較する手法で解読。GGUFのウェイトを事前コンパイル済みエンジンへロード時に直接パッチできるようにした。変換ステップは不要で、CPUリファレンスと96%のトークン一致を実現している。
さらに「壊れている」と思われていたバッチprefill経路は実際には正常動作で、出力バッファのbind方法に問題があっただけと突き止め、716トークン/秒のプロンプト処理を実現した。Pi 5での実測は2kコンテキストで24.5トークン/秒(int4)で、CPUはほぼアイドル。特に示唆的なのは「24 TOPS」の内訳で、batch-1のdecodeでは演算器は約1%しか使われず、実効約25GB/sのメモリ帯域が律速になるという。「decode速度=トークンあたりのバイト数×重みを一周する回数」という枠組みで得られた性能がすべて予測できた点も含め、エッジAIの実態をよく映すレポートになっている。
同じくr/LocalLLaMAでは、先日登場した自己改善モデル「Ornith 1.5」(当ブログ8月23日紹介の追試報告も増えている。あるユーザーはMTP込みで約130トークン/秒が出てツール呼び出しも好調で「Qwen 3.8 35Bのあるべき姿」と評価。別のユーザーはOrnith-1.5-35B-Q4_K_Mが8GBのRTX 4060上で、無限に手続き生成が続くウォーキングシミュレーターをほぼワンショットでコーディングしたと報告している。大型モデルの公開が続く一方で、狭いメモリでどこまで実用に届くかという地道な検証の流れも続いている。
大型オープンモデルの投入が再び活発になる一方、評価の信頼性やエッジでの実運用といった地に足の話題が並んだ8月28日だった。
